第37期 #16
「それならさ証拠見せてよね」
「証拠?」
「うん、私が好きだって言う証拠」
少女がいい、少年が問い、そして少女が答えた。蝉はうるさくないているだけだ。「ミカンが食べたいの、だから、向こうの方に」
そういって彼女は指をさす。
「ミカンの樹があるからそこから取ってきて」
確かにそちらの方向には農園があった。
「わかった、じゃあそしたら、好きになってくれる?」
「考えておくわ」
少年が了承と共に問い、少女は答える。
じりじりと、日差しが強かった、彼はその空気の中を自転車で軽快にかけていく。汗が噴出しても意に介さない様子で、無心。ただ無心で自転車を漕いだ。
農園には特別な柵も無く、人に見つかることもなくて、少年はミカンの木を見つけた。
「……これ大きいからこれでいいや」
幾許か歪で確かに大きい果実を籠の中に収める。そしてまた走り出す。
ひぐらしが鳴く夏の中を駆けて行く、暑くまとわりつくような大気の中を気にもせずに走り続ける、後ろを振り向くこともなしに少年はただ前のみを見て走り続ける。 ついた頃にはすっかり夕方になっていて、少女はそれでも待っていた。
「あら、お帰りなさい」
「ただいま。これでどう?」
籠に入れた果実を少女に渡すと、彼女は明らかに不機嫌そうな顔をして。
「これはデコポンっていうのよ、私が欲しかったのはミカン……それにあっちの方っていうのはね」
少しためて、言い放つ
「愛媛ってことよ」
確かに、愛媛にはミカンがあるだろう。少年は納得して、そして落胆する。
「じゃ、じゃあまたダメなの?」
「一緒に行くわよ、ミカンを探しに愛媛まで」
告白が失敗すること、既に百飛んで五十六回。少女は満足そうに笑いながら。
「さぁ、はやく」
とそれだけを言った