第36期 #4
一つ二つ、三つ四つと、仄かな明かりが灯っては消え、消えては灯る。
ふらりふらりと頼りなげに舞う光を目で追ってみるも、どこへ行こうとしているのか、何がしたいのか、まるで分からない。それでも随分と長く眺めていると、幻想的な空間にいるはずなのに、なぜか色がはっきりせず、賛美に値する言葉が一つも思い浮かばないことに気づいた。
人の声を遠くに聞きながら、誰もいない川土手でぼんやり膝を抱えていると、やがてはぐれた光が一つ寄ってきた。何とはなしに手を差し伸べると、不意に、別の手が指先に触れた。
「こんなとこにいたの」
振り仰ぐと、薄明かりの中、柔和な表情がかろうじて見えた。
「急にいなくなるから、みんな心配してるよ」
「……嘘」
私の言葉に彼は否定することなく、困ったような笑みを浮かべ、頷いた。
「でも、僕は心配した」
私の手を優しく握ると、彼は足を投げ出して座った。熱を帯びた腕が触れ、少し冷えた体に気持ちいい。その温もりが流れ込んだのか、途端に胸が熱くなった。
それをかき消すように、彼に倣って抱えていた足を投げ出すと、履いていたミュールが片方、草の上に転がった。幾度か回転して止まったのを確認すると、どちらからともなく小さく笑いが漏れた。
その声に反応したのか、光が一つ、視界の端を横切った。
「ごめんね……家の人に、ひどいこと言っちゃって……」
笑いに紛れて謝ると、彼がこちらを向くのが分かった。でも私は川面の光りばかり見ていた。顔を見たら、また気持ちが高ぶってしまいそうで、そうなると今度は彼を責めてしまいそうで、出来なかった。それが分かっているのか、彼は特に責めようともしなかった。でも逆に責められている気分に陥って、苦しかった。
「お互い様だ。お袋があんなに頑固だなんて、思いもしなかった」
「……許してもらえないよね」
彼は黙ったまま、正面に向き直る。気休めの言葉もないことが、肯定している何よりの証拠だった。それでも、握られたままの手が唯一否定してくれているように思えて、私は気がつくと強く握りかえしていた。
遠くで雷鳴が轟くのを聞いた。彼が軽く天を仰いだ。
「帰ろうか」
頷いて、脱げたミュールに視線を向けると、すぐ横で寄り添うように光りが灯っていた。
彼の手が力を込めた。
なぜか、呼吸するようにゆっくりと明滅する光りが、心地よく、そして綺麗に見えた。