第36期 #2

仕事日記

地方公務員になりたかったが、気づけば年が立ち、うけられるものが他になかったという理由で、刑務官にな
った。そんな男だ俺は。年々、飲む薬の量は増える。胃腸薬、血圧降下剤、求心、養命酒(薬か?)。
最後はいいとして、特に胃と血圧が問題だ。娘がしょっちゅう薬を飲む俺を見て
「お父さんの体は薬漬け」と弱冠心配しているらしい。弱冠、というのは俺も仕事が忙しく、あまり対話する
機会がないので、そんなもんではないか、と俺が決めた度合いだ。
徹夜勤務をおえて夕方に出勤したら、職員達が騒然としているではないか。K新聞にうちの刑務所の
元服役囚二人が、刑務官に虐待を受けたと告白しているという。誰のことだいつのことだ何のことだ。
所内に声が渦巻く。
二人はいずれも先月釈放されており、1人は勤めるねじ工場でクビをきられかけて社長を遅い、傷害罪で懲役
3年6ヶ月(3年で釈放)だった男。もう1人は、麻薬常習で懲役1年のダンサー(兼AV男優)の男。
虐待の内容は差し入れの手編みセーターや耳かきを横取りされたことらしい。虐待、と呼ぶのかはともかく
事実なら違法行為だが…。勝手なことを言ってるだけだろう。いやがらせだ。声は続いていた。
やれやれ、である。少なくとも俺ではないが。しかし当分K刑務所の刑務官ってだけで、
風当たりがきついかもな。そんな想像をぼんやりとする。
ねじ工場も、ダンサーも真面目に服役生活をこなし、表立って問題も起こさず(内部でいざこざに
巻き込まれていたかは分からないが)出て行った。
翌日、娘と妻がよってきて「お父さんとこでしょこれ」と新聞を見せる。元服役囚のことより、現役服役囚のことで
手がいっぱいな俺は「そんな話、しないでいい」と不機嫌な顔をみせる。
そう思っていたのに、夢を見た。苦手な上司である看守長が、ねじ工場の着ていた白くいびつなセーターを、
ダンサーの竹の耳かきを、無理やり奪っていくのである。俺は看守長を指差して大笑いし、
奪われた二人は男泣きをする。同期に話すと、能天気なやつだと笑われた。薬漬けなのだが。向いてないと思うこと多いが、転職も難しい昨今である。


Copyright © 2005 柚森 / 編集: 短編