第36期 #1

スペースエイジ

 バカ宇宙人がまた変なものを拾ってきた。
「ねえねえ、美知ぃ。これ、なんだとおもう?」
「知らないし、知りたくもない。いいから捨ててきなさい。今すぐ」
 どうせまた不発弾とかワープホールとかで、バカ宇宙人が弄くりまわした挙句に爆発したり亜空間に吸い込まれそうになったりするに違いない。五度あることは六度あるに決まっている。
「美知……人類の進歩は失敗の数に比例していると考えたことはないのか!?」
「黙れ、宇宙人」
「がーんっ、差別だ。宇宙人差別、反対!」
「差別が嫌なら家賃でも入れてみろ、居候バカ宇宙人」
 喚きちらすバカ宇宙人をとりあえず蹴っ飛ばす。バカの手から丸いものが畳みに転げ落ちる――バカ宇宙人が湾岸産廃島から拾ってきたのだろうオーパーツだ。
「まぁた、こんなゴミ拾ってきて……なにこれ、スイッチ?」
 スイッチがあれば押してしまう。それは人間として仕方のないことだとおもう。だから、わたしは悪くないんです。あんなことになったのも全部、無銭飲食バカ宇宙人が悪いんです。ええ、もう。

『――続報です。国会議事堂の上空に突如開いたワープホールは、依然として膨張をつづけ――』

「……ねえ、ドロップアウト宇宙人」
「その素敵なニックネーム、まさかボクのことじゃな――げふっ」
 とりあえず殴った。そのままシャツの襟首を捻り上げて、安普請の黄ばんだ壁に叩きつける。
「いい、落ちこぼれ街道まっしぐら宇宙人。あんたは何も拾ってきてないし、あたしも変なスイッチなんて押してない。っていうかスイッチってなに? あたし、なんにも知らない憶えてなぁい」
「はっはっは。美知は物忘れがひどいな――ぐほっ」
 ボディーブローは地獄の苦しみ。
「いいね、わたしもあんたも、なにも知らない。変なスイッチ押した途端に『業務用亜空間式掃除機、起動しました』なんて音声案内のあとにワープホールが開いて議事堂を飲み込もうとしてるなんて、知らない――いいね!」
「ゴミ掃除で国会議事堂を狙うなんて、シャレの効いたオーパー……ぁ、ぅ――」
 顎をかすめるショートアッパーで脳味噌を揺らしてやると、ずるずる倒れこむ墜落系バカ宇宙人。
「これで忘れられたかしら?」
 にっこり微笑むわたしに、うつろな目で頷いたから許してやることにする。

 ワープホールはそれからすぐに消えた。どうやら電池切れだったらしい。被害は……宇宙人排斥派で売ってる若手議員のズラひとつで済んだそうな。



Copyright © 2005 橘内 潤 / 編集: 短編