第36期 #15
「あたしはいつか溶けてなくなっちゃうの」とチュパチャップスは言った。
「俺だっていつか齧り尽くされてなくなっちゃうんだぜ」とキットカットも言った。
「そっか、あんたも」チュパチャップスは少し同情したように言った。「なんでなんだろね、あたしたち」
「そりゃ決まってるさ」訳知り顔でまたキットカットが言った。
「どう決まってるのさ?」チュパチャップスは真剣に尋ねた。
「形あるものはいつかなくなるものさ。一切は空である」そうキットカットは嘯いた。
「何よ、それ? 聖書?」
「君こそなんでそんなことが気になるのだい? 全く仕方ないことだぜ」キットカットが反対に尋ねた。
「そりゃ分かってるわよ。でもあたしたちこんな風に色鮮やかに着飾ってて、なんでなくなっちゃうんだろうって思うと、おかしな気分になるから」
「いつかなくなるからこそ着飾るのさ」
「そう…かもしれないけどさ」
「今を生きる」
「それ知ってる! 映画でしょ」
「サァ」
「ねえ、寂しくなった時どうしてる?」
「バスに乗るよ」
「バス?」
「ああ、市内じゃ乗り放題で500円。一日グルグル回っていりゃ寂しいことも忘れてそのうち眠くなる」
「バスは苦手。なんだか怖いの。どっかへ連れてかれそうで」
「じゃあ観覧車にでも乗ればいいんじゃないか」キットカットは背中をぼりぼり掻いて言った。
「とにかく何かに乗るべしってことね」チュパチャップスは笑った。「具体的なアドヴァイスはとても参考になるわ」
「どういたしまして」
「ねえもういっこだけ訊いてもいい?」
「もういっこで百問目だよ」
「そんな莫迦な! (アハハ)ええと、生まれ変わったら何かやりたいこととか、なりたいものって、ある?」
「…ウーン。生まれ変わりなんてあんまり信じちゃいないんだが、やりたいことといえば、百年先に生まれてロケットに乗りたいな。きっと百年後の連中は当たり前に乗ってる筈だからね。頭が悪い俺でも乗れると思うんだ」
「そうか。素敵ね」
「君は?」
「それがあたし、考えたことまるでなかったのよ。今、初めてフトそんなことを考えたから。だから訊いてみたくなったのよ」
「そうか」
「こんど観覧車に乗る時に考えるようにするわ」
「いい考えだ」
「じゃあ、さようなら」
「ああ、元気で」