第36期 #10

愛しさと哀しさ

いつだったか、君が唄った詩があった。


「愛しさと哀しさ」

上から降る幾つもの美が 僕に降りそそぐ
美は風に舞い 僕の肩に辿りつく
とても静かで繊細で でもこわれそうではなくて
そこに 愛しさ というものを感じた
言葉では表せないような そんな愛しさ

そして僕は 目を閉じ
その美を手でそっと包む
やっぱりそれは こわれることなく生きつづけていて
やっぱり僕は さらに 愛しさ を感じて
でも 愛しさ と同時に生まれたものもあった
それは 哀しさ というもの

なぜ 哀しさ が生まれたのか
問いかけてみても 答えはなくて
さらに 哀しさ が僕をおそってきた

 愛しさ
  と
 哀しさ
が同時に生まれた
そんな感情を持てたことを
僕は 幸せに思う


君はさ、その後、私に問いかけてきたよね。

 僕の上から降ってきた美はなんだったと思う?
 なんで愛しさと哀しさが同時に生まれたと思う?

でも私は分からなくて。
 
 なんだったの?
 なんで?

そう聞くと、君はこう答えたよね。

 僕の上から降ってきた美は、桜の花びらだったんだ。
 風に舞って、生きているみたいで、愛しさを感じた。
 でも、風に舞っているということは散っているということだと気づいて、哀しさを感じたんだ・・・

そして、君の穢れのない瞳からは一筋の涙が流れていた。
その涙はあまりにも綺麗で。純粋で。

私は、そんな彼がたまらなく好きだった。



Copyright © 2005 日向 琳 / 編集: 短編