第35期 #13
会う人みんなに大変ねと同情されがちな母一人子一人の生活だが、今の私達はそこそこ楽しく暮らしている。
子供を預けて一日働き、疲れて帰宅しても、ミッキーの人形を抱いて寝ている我が子の姿を眺めていると、母として弱音なんか吐いてられない。
この子だけが今の私の生き甲斐なのだ。
ミッキーが大好きな子供を連れて、ディズニーランドへ行った。
実は、子供がいつも抱いているミッキーは、私が彼、──つまり、この子の父親──に買ってもらった物。
一人でこの子を育てていても、どこかで男らしかった彼の想い出を捨て切れていなかったのかもしれない。
その事は子供には秘密にしていた。と言うより言う必要がないと思っていた。
しかし、子供がミッキーに「パパ!パパ!」と言って近づいていった時は本当に驚いた。
パパじゃないのよと言っても抱きついて離れようとしない。
当のミッキーは困惑して私の顔を見つめている。
子供には不思議な能力があるって言うし、もしかしてミッキーの中にいるのはあの人?
この子がお腹に入ってると知った途端、私を捨てたあの人?
私はミッキーに話しかけた。
「あなたがいなくたって、私はこの子を育てあげて立派な大人にしてみせます。」
ミッキーは何も言わず子供を抱きしめ、両手で空高く掲げた。
エレクトリック・パレードの音楽が流れ始めた。
ミッキーと私たちは一緒に歩き始めた。
見物している他の客も私たちの再会を祝ってくれているような気がした。
これから訪れるだろう幸せを感じていた。
突然、音楽が止んだ。
シンデレラが叫んだ。
「ちょっと待って!その子の父親はアタシよ!」
シンデレラ城の鐘が鳴った。