第35期 #11
和彦は生来、普段なれてないことをするとき、必要以上に気負ってしまう。
たとえば今日、これから証明写真用の、インスタント写真を撮らなければならない。
なんかかったるい。
郊外のショッピングセンターの入り口脇の小スペース。
こんなかえって目立つところに、それはたいてい設置されてる。
証明写真のボックス。
駐輪場に自転車を止め、不機嫌ヅラで、和彦はそれを目指した。
カーテンで閉ざされたボックスの中。女性の膝から下が見えた。
ちっ、あいにく先客がいる。
一応順番待ちをするため、和彦はその脇で所在無げに突っ立っていた。
やがて先客は出て行き、外で写真の完成を待っているようだった。
和彦はおずおずと会釈しながら中に入った。
座席をくるくると調節してると、カーテンを開けられ、はっとして見上げると、先客の女性だった。「スイマセン」
女性は遠慮気味に、きょろきょろと中を見渡している。
「何か?」
「いいえ、なんでも。ただ、このボックス。明日にはこっから撤去されてしまうらしいんですよ」
「へえ、そうなんですか」
他に答えようがない。
不自然な沈黙のあと、女性はカーテンを自ら、もとのように閉ざした。
どこかで見たことのある女性だった。
撮影の準備をしながら、和彦は頭の中でぐるぐると考えていた。
知り合いの類ではないが、きっと、今までにどこかで。
美人ではないが、決してブスでもない。「十人並み」という言葉は、まさに彼女のための言葉だ。
さて、そんなことはさておき、セッティングを終えた和彦は、機械正面のボタンに向かい、お望みの写真サイズを設定した。『十秒後に、撮影を開始します』 機械の女声が無機質に告げた。
ドキドキ。
小心者の和彦は、この場になって、急に緊張してしまった。
イスの高さはあっているか。
サイズの選択はOKだろうか
あと、髪型…寝癖なんかたってないだろうか?
たちまちすべてが不安になり、ふと、正面左の撮影例のモデルの写真を見た。
「まさか…」
正面に顔を戻しながら、和彦は横目で、もう一度そのモデルの顔を見た。
「さっきの彼女じゃんか!」
和彦は妙な気配を感じ、カーテンの外に飛び出ようとしたが、ときすでに遅し。
『はい! 撮ります』
閃光!
『はい! 獲ります』
閃光!
『はい! 捕りました』
閃光!・・・・・・・・・・・
和彦はとられた。