第34期 #7

回転式の

ぐるぐるとまわる。ひたすらまわる。疲れてきても、汗が吹き出ていても、喉をかきむしりたくなる衝動に駆られても、それでもまわる。たまに緩急をつけてみたり、競ってみたりするけれど、それでもぐるぐるまわるという事に変わりはない。何の為かはわからない。もう目的なんて忘れてしまった。まわりはじめた理由すら忘れてしまった。思い出したところで、それになんの意義がある。どうせ大したことではない。なんにでも理由があると決め付けるのは間違っているのだ。脚が女のものとは思えないほど逞しくなっても、皆に敬遠されても、私はまわりつづける。そんな私を、足の細いクラスメイト嗤う。『ナニアレ、ミジメェ』。それでもまわる。決められた距離を決められた速さでまわる。まわれなかったら、まわる為にまたまわる。何かが私を駆り立てる。モットマワレ、ハヤクマワレ。
狐のような目の、ゴリラみたいな体系の教師が言う。「よし、昨日よりまたタイムが伸びてるぞ。来週の新人戦は表彰状圏内だな。ストレッチしたらグランドあと二週ダウンで走れ。それで今日は終わりにしよう」
 ああうですか。気のない返事をすると狐とゴリラのハーフのような教師は何故喜ばないのかと、訝しむ瞳で私は見つめる。そんなこと私には関係ない。ただ、なにも考えないで何者にもならずに、ただまわる。三十五度の灼熱の太陽のなか、呼吸が荒くなり喉と喉がくっつく錯覚に陥り、目の前の景色がだんだんと色を失い始める。嗚呼もう死ぬかもしれないと思う。そんな瞬間だけが私を生かす。



Copyright © 2005 夕生 / 編集: 短編