第34期 #28
地面に叩きつけられたカードから、まばゆい光が四方八方に広がっていく。中心に形が見え始め、それは徐々に大きくなり、やがてジャージを着た一人の男が私の目の前に具現した。彼を認識した途端、私は今日の負けを悟った。
「久しぶり。峯も随分大人になったな」
召喚されてきた中学の時の数学教師・北は、昔と同じように暑苦しい口調で話しかけてきた。名字を呼び捨てにされるのなんて何年ぶりだろう? でも懐かしさに浸ってばかりもいられなく、私は手短にルールを説明する。
「ああ、来る途中に説明を受けたから。天の声みたいだったな、あれ。結局、向かいの奴等と戦えばいいんだろ?」
上目遣いで媚びるように私は頷いてみた。そして期待をせず、少しの興味だけを持って北を送り出した。
とはいえ、やはり北では無理だった。勝負は一瞬で決し、私は貯めこんだポイントの多くをペナルティとして奪われてしまった。やるせなくそばのベンチに座る。
「申し訳ない」
北は私の目の前に立っている。本当にすまなそうな顔をしている。
「こういうの初めてなものだから。何だか分からないうちにやられてしまった」
「先生の因数分解攻撃が効かなかったのが痛かったですね」
「ああいう外見の敵だったが、きちんと勉強していたようで簡単に解かれてしまった。数学教師としては喜ぶべきことかな……。ところで」
やはり、いつもの質問がくるのだろう。
「峯は今何をしているんだ?」
カードで呼び出された人は必ずそう問うものだから、今や私はすらすらと答えることができる。
「会社勤めをしながら、こうやってカードバトルをしています。ちなみに結婚はまだで、彼も現在募集中です」
「そうか。まあ元気そうでうれしいよ」
「先生は?」
「前と同じだよ……。知ってるか峯、最近の生徒は進んでいるんだぞ、君達の頃と違って」
北は話し始めると長いので、適当な所で切り上げなければいけない。
「先生、でもそろそろ帰還しないと。多分『神隠しだ』と心配されてますよ」
「そうか……。じゃあ峯も、社会の荒波に負けず頑張れ」
北が手を伸ばしてくる。言葉といい行動といいクサさに満ちていたけど私は握手した。落ちているカードを拾ってホルダーにしまうと、北の姿が次第に薄れてくる。
「峯、同窓会に呼んでくれたら行くぞ」
消える寸前まで話し続けた。この調子だと、チャイムが鳴って授業時間が終わっても北の語りは止まることがないのだろう、今でも。