第34期 #24

ラスト

「人間は滅ぶね。みどりの怪獣がアメリカの主要各都市を壊して回っているからね。人間は滅ぶね。滅んでしまうね」
「セックスの時くらいテレビは消しましょうよ。本当にテレビっ子ですね先生は」
「気にしないでおまんこ舐めて。ああ、滅ぶね人間は」
「でもあおい怪獣のようなオチにはならないでしょうね。知ってます? あおい怪獣のおはなし」
「知ってる知ってる。子どもの頃何回も読んだ。小さなあおい怪獣を連れて帰ると、あおい怪獣がどんどんものを食べてしまって」
「『だめじゃないか僕のママとパパを食べてしまって。どうするんだよ』」
「『ごめんよう、でもおなかがすいて』。あおい怪獣はどんどんいろんなものを食べてしまって、どんどん大きくなって」
「『あおい怪獣はビルよりも大きくなって』」
「で、最後に食べられた主人公が怪獣のお腹の中で、怪獣の食べた世界がそっくりそのまま残っているのを見る。あれは怖い話だねえ。世界に対して食べるという行為しかできなくて、世界の全ての、世界の全部の物の、世界の全部の人の、その外側にしか存在できないのだからねえ。なんていう孤独。なんていうひとりぼっち。なんて寂しいのだろう」
「じゃあ先生、その寂しさで一つ何か書いて下さいよ」
「最近は寂しくもないし悲しくもないから何も書けない」
「良いからなんか書けよ」
「だから書けねえって言ってんじゃん」
「困った人だなあ。来月二人目生まれるのに。路頭に迷うなあ」
「また生まれるんだ。奥さんとはお尻でしないの?」
「しますよ。両方でします。あの女、尻好きそうに見えるでしょう」
「見える見える。だからっ、あたしは無理だって。いたたた、痛いって。馬鹿、痛い痛い。ていうかなに、みどりの怪獣がやられた? 黄色の怪獣に? なにそのオチ、超くだらなっ。つまんない。ていうかあたしの代わりにあんたが何か書きなよ。下手くそですよ僕、って解ってるよそれくらい。最初は誰もそうなの、って何これ、ぷっ、超下手くそ。才能ゼロだね」
「才能ゼロですよ」
「そっか……。じゃあしょうがないね……。まあお互い頑張ろうか。ていうか見て、黄色の怪獣格好いいよ。ファンになっちゃいそう。頑張ってー、って自分で言ってて嘘臭く感じるのは何故。本気のつもりなんだけれど。ここがあおい怪獣の中だからか。仕方ないから薬でも飲むか」
 部屋中に散らばる薬を一粒手に取る。偽の宝石のようなその輝きを、あたしはつるりと飲み込む。



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