第34期 #23
「暇」
「暇?」
「笑わせてよ」
「いいよ。じゃあタコの兄さんの話をしようか」
「それ飽きた」
「じゃあイカのおじさんにする」
「イカのおじさん……ね。どうせ、イカのおじさんがいいました、イカん! とかそういうのでしょ」
「よくわかるな」
「ああ暇」
「じゃあ象の歌について語ろう。ゾウさん歌える?」
「知ってるよ、ぞーさん、ぞーさんってやつでしょ」
「その続きなんだよ問題は。続けて」
「どうしてあたしが? 馬鹿みたいじゃん」
「おーはながながいのね。そーよ、か・あ・さ・んも なーーがいのよー」
「音程ずれてるよ」
「じゃあいいかい、問題だすよ。この唱の中で『母さんも長いのよ』と言っているのは誰? ①読者②語り手③母さん象④子象」
「誰でもいいよ」
「それじゃあ話にならない。こういうときは嫌でも回答すべきだ」
「母さん象?」
「ちがう。子象だよ。子像が鼻長いねーって褒められるんだけど、『母さんも長いのよ』って親を誇るんだ」
「それで?」
「感動しないの」
「どこに」
「いいかい。これは戦後に作詞まどみちお作曲團伊玖磨でつくられた」
「うん」
「日本がね、アメリカに占領されてたんだよ」
「それとどんな関係が……」
「ほら考えてみろよ、焼け野原で夕陽を見ながらこれがラジオにかかるんだ。ぞーさん、ぞーさんお鼻長いのね、みんなここで一呼吸置いてさ。そーよ母さんも長いのよ……とこうくる。母さん象は日本の象徴であり、自分の母さんのことでもある」
「わからないなあ」
「え、うそ」
「うーん。なんか意味不明」
「え」
「でも意味不明っぽくておもしろい気もする」
「そうか。まあ笑いは個人的だから」
「なんかユーモアって感じの笑い話してよ。もっとほら軽くてさ。すいすい進んでがつんとどんでん返しがくるような」
「すいすいがつんねえ。やってみよう」
「よしよし」
「俺の近所にユカちゃんっていう姉ちゃんがいて子供の頃、遊んでくれた」
「うん」
「高校のとき根は悪くないけどちょっと変な奴とつるんでてさ、そいつと街に出たときにユカちゃんがいて。あれ、何話してんだ俺」
「続けて」
「ユカちゃんは彼氏っぽい人と歩いてたんだけど俺のつれが突然二人に叫んだんだ」
「なんて?」
「お前らヤッてんじゃねえぞ! って。ユカちゃん、俺の目をじっとみて。俺、あたま真っ白になって。その目を思い出す度に……あれ、あれ?」
「笑えないぞ」
「そうだな、変だ」
「でもイカや象の話よりよかったよ」
「そう?」
「うん」