第34期 #10

三丁目のペロちゃん

斜向かいの佐々木さん家にはペロちゃんという雑種の犬がいる。
奥さんが毎朝ジョギングがてらお散歩に連れ出す。その時のペロちゃんのうれしそうな事といったら子供がクリスマスケーキを見た時、又はそれ以上だ。毎日そのテンションだ。人間業じゃない。いや、犬だったか。

そんなペロちゃんは近所じゃちょいと有名な犬だ。家の前を保育園の子供たちがお散歩をする際、列をなして通る時にいつもペロちゃんは首を左右に振って舌を出してお見送りをする。それを見て子供たちは
『ペロー』
『ペェーロォーォ!!』
『ペロバイバーイ』
と、手を振って返す。ペロは絶対吠えたりしない。園児の長い列が通り過ぎるまで舌を出して首を振っている。

そんなペロちゃんにはこんな逸話がある。
朝は奥さんとお散歩をするのだが、夕方は佐々木さん家の末っ子のあきえちゃんとお散歩をする。2月頃だったか、6時前だがすでに日もとっぷりと暮れていたある日、いつものようにあきえちゃんとお散歩にいったんだ。散歩コースの川の土手で、歳は私と同じ位らしい変質者が現れたんだって。あきえちゃんは大人しい子だから震えて声も出なかったんだろうな。その場にしゃがみ込んでしまって、近寄ってきたその男に捕まったらしいんだ。
そしたら、あのペロちゃんが『ギャンギャン!!ギャンギャン!!!』ってその男の鼻に噛み付いたんだって。食らいつき離さないもんだから、痛くて痛くて、大きな声を出してのたうち回る男の声に気づいた近所の大学生が、その場に駆けつけて助けたんだと。

お手柄だお手柄だって警察の方からとっても褒められてたんだよ。それ以来近所のみんなもペロちゃんには一目置いてるんだよね。

あぁ、ちなみにペロちゃんは佐々木さん家じゃ「タロウ」って呼ばれているんだ。ペロちゃんってのはいつも舌をペロって出してるからみんながそう呼んでるんだね。



Copyright © 2005 水島陸 / 編集: 短編