第33期 #6
怒りの感情というものが欠落気味の俺でも、そう、時と場合によっては「怒ら」なければならぬ日がこの先の人生、全くないとも言い切れないな。さあて、一つ頑張ってみるか。
芋の子を洗うような行楽地。押し合いへしあいの家族団欒。ガキの手にしていたソフトクリームが何かの拍子に俺の背中にべっとり。
「うわあああぁぁぁぁん」
泣きたいのは俺の方だぜ、とシャツの裾にべっとりのクリームをグイと引っ張り上げる。まぁここまではヨシとしよう、不慮の事故にいちいち腹を立てても仕方がない。
しかし、母親はこちらに一瞥をくれる訳でもなく「何ぼぉっと歩いてるのっ。しっかりしなさい」とガキの手を引っ張りスタコラスタと立ち去っていくではないか。
謝罪のシャの字もねぇのか。うぬぬ。俺は烈火の如く怒りの感情の引き出しをうんとこどっこいしょこじ開けなければならぬ。よぉぉし。
俺は、ヤカンの如く頭から湯気を吹き上げ、ハリモグラの如く一本一本の髪を逆立て、キツネ目の男の如く右目をつりあげ、杉サマの流し目の如く左目を切れ長にし、青ミミズの如くこめかみに青筋を這わせ、ポップコーンの如く鼻を膨らませ、熟した柿の如く赤らめた頬をフグの如く目一杯膨らませ、今にも墨を吐かんとするタコの如く口を尖がらせ、ダンボの如く耳をはためかせ、ろくろっ首の如く首をぐるんぐるん回しながら、オラオラ魁皇の如く肩をイカらせ、遠山の金さんの如くもろ肌を晒し、鳩の如く胸襟を開いて、ええっとそれから、アミダくじの如く腹筋を割り、フラダンスの如く腰を振り、タカアシ蟹の如く足をガニマタに踏ん張り、バレリーナの如くつま先立って、ならず者の如くこう言い放つのだ「やいやいやいやい、待ちやがれぃっ、この落とし前どう付けてくれるんでぃっ……」はぁはぁ、はあ。
遥か遠のく親子連れ。文章で怒るのはなんだかとても難しいのだな。徒労と帰すガラクタ文字列。「怒り」を発揮する日は当分来そうにもない。