第33期 #20
ナイフを拾った。
公園の横にある路地。いつもなら気にもとめないが、今日は何かに呼ばれているような気がする。別にオカルトの趣味はないが、この後、特に決まった予定もない。子供の頃、探検ゴッコが好きだった私は、少しワクワクしながらその路地へと足を踏み入れた。
人が辛うじてすれ違える程度の、狭い路地をしばらく進むとその先は――行き止まりだった。
軽い失望を覚えながら、今来た道を引き返そうとした瞬間、私は何かを踏みつけた。慌てて足をのけて確認すると、それは古びた折りたたみ式のナイフだった。
普段なら、無視するはずのそのナイフを拾ったのは、先程感じた探検気分がまだ残っていたのだろう。
刃の部分に錆が浮きでている、その汚れたナイフをポケットに仕舞った私は、その後で砥石を買って帰途についた。
汚れを拭き取り錆を落とすと、その古ぼけたナイフは見違えるようになった。
綺麗になった刃を見ていると嬉しくなる。 私は飽きることなくそれを見つめていた。 ふと気がつくと、刃に映った私も微笑んでいる。
この綺麗なナイフと一つになりたい――
気がつくと私は、左手首にその刃を押し当てていた。
鋭い痛みと共に、小さな血のかたまりが出来る。ほんの少しだけ綺麗な刃に赤い色が付いた。
ナイフを染めた分だけ、ナイフも叉私の中に入ってくる――そんな奇妙な錯覚を覚えた
私は、もう少しだけ右手に力を込める。
左手首から流れる血はナイフを紅に染め、更に下へと続く。もうあまり痛みは感じない。
ただナイフと一つになる感触が嬉しかった。 ナイフもまた、私と一つになることを喜んでいる。その証拠に、刃に映る顔も嬉しそうだ―― そんなとりとめのないことが、頭の中を渦巻く。
そうなるともう止められない。
私は更に右手に力を込めた――
Fin