第33期 #2
二人の戦士が、崖の側を歩いていた。二人とも満身創痍と言った出で立ちで、体中のあちこちにまるで模様のように血がこびりついていた。
「ちっ。あれだけいたのに、俺たち二人だけかよ」片方の男が、そう舌打ちする。
「そう、騒ぐな。合流地点はもうすぐだ。他の組はまだ、生き残ってるだろう」
「しかし、な。魔王を倒すために、国に帰れば英雄、ってな精鋭を集めたはずだろ? あまりにも、不甲斐無いとは思わないか?」
「仕方があるまい。私達だって、人の事は言えんだろ、ルファ? 無駄口叩いてると、体力の無駄だぞ?」
「わかったよ。ん?」
その時、向かう先に、何かが動いてるのに気づき、二人は腰の剣に手を伸ばした。そして、二人は慎重に道を進んでいった。
と、突然、ルファが駆け出した。目前にいるのが、崖から落ちそうになっている、人間だったからである。
「無駄だ、ルファ」背後でそう声がしたが、ルファには届かなかった。
ルファが走る間にも、相手の体は徐々にずり落ちていっていた。そして、ルファが目の前まで来た時には、崖の上には両手だけしか見えなくなっていた。
「間に合え!」ルファが叫び、手を伸ばす。
が、ルファの手は相手の手をつかむ事ができなかった。間に合わなかったのではない。相手の手はまだ、崖の上に辛うじて残っていた。にもかかわらず、ルファにはその手をつかむ事はできなかったのである。
「な……」自分の手と相手の手が重なっている。だが、地面の感覚しかしない。ルファは絶句した。
そして、そのルファの前で、手は崖の下へと消えていった。
「無駄だと言ったろ?」ルファの背後で、そう声がした。
「今のが何か、わかるのか?」
「ああ。今のは、先の魔王との戦いで、ここで死んだ人間の記憶だ」
「記憶?」
「本人は気づいてないだろうが、同じ死を繰り返させられてるのさ、魔王に挑んだ罪の罰として。また、しばらくしたら、この崖から落ちていくさ。それを私達に見えるようにしてるのは、脅しだろうね」
「永遠に……、このままなのか?」そう聞くルファの肩は、怒りに震えていた。
「さて、ね。永遠に、このままか。魔王を倒せば、もしくは」
「急ぐぞ。合流地点はすぐそこなんだろ?」ルファはそう言うと、早足で先へと急ぐ。
そして、二人はその場を後にし、目的地へと向かった。
魔王が倒されて、五年。二人がこの道を幾度辿ったのか。それを知る者は、誰もいない。