第33期 #3

リアル

 子供の頃に楽しんだ、懐かしい人型機械がでてくる映画を見にゆく。あの頃とは違い、実写版ということで、どうなる事かと思っていた。役者の演技は良かったのに、なんだかふわふわした、ゴムまりみたいなボディをもった機械どうしの決戦があって、拍子抜けだし情けなかった。そこにはだから、何も感じなかった。

 十二階ほどのビルの上を、勇ましく見栄を切るから、変わってないなと懐かしかったのは、確かにそうだ。道路をぶち抜くこともなく、アスファルトの上を平然と歩いてゆくから、苦笑する。
「あはは、随分と軽いんだなぁ」
と思うと、いきなり気がついて納得した。
「なるほど、実写だ。これは、すごい」
軽いから、あんなゴムまりみたいな、妙につるつるしたボディなんだ。
 特殊な強化プラスチックなどの素材で、空洞の骨組みをして、チタン繊維を吹き付けたアルミでボディを覆う。鉄の代わりだと、コストは気が遠くなるほど跳ね上がるが、マッハの速さで空を飛ぶのだから、こうでもしないと重過ぎて飛べない。スペース・シャトルの再突入時の速度が、ほぼマッハ1だと聞いた覚えがある。そんな速度で飛ぶわけだから、妙な凸凹があっては、空力的に困るし、そうでもしないと火だるまになってしまう。
「火だるまは、まずいよなぁ……。でも、面白いかな」
 どういった設定だったのか知らないが、昔の銀座のビル街といっても、高さは5〜6メートル。今なら近所の商店街でも、そんなものだろう。もともと、この人型機械は、その程度の高さなのかも知れない。そこなら角度に頼れば、そこそこの高さで済んでいただろうに、今はビルの方がやたらと高層になっている。そのうち、特殊耐火風船とか、そんなボディになるのだろうか? 
 だからといって、鉄の匂いや、機械のギシギシした音を期待していたから、観る側としては物足りない。とはいっても、送り手は実写を売りにしてしまったら、あくまで拘らないとリアリティがない。
「送り手というものは、ここまで考えのか」
何も感じなかったなんて、送り手でも見る側でもない、なんて中途半端なことを考えていたんだろう。
 それにしても、あれにリアリティは感じない。そう思わないんだ、どこが悪い? ファンタジーにするか、リアルにするか、それは見る側の"おつむ"の問題かもしれない? 馬鹿にするな!

 他人事ではなく、もうすでに仮想現実のほうに、リアリティを感じているという事だろうか。



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