第33期 #14
気がつくと私は深い霧の中に立ち尽くしていた。一本の長いアスファルトの道。その道の上に自分の足が付いているのが見てわかる。少し、浮いた感じだった。自分の足なのに自分のものではない感覚。
そんな奇妙な感覚の中で、私はただ前へ前へと進まなければならないという衝動に駆られていた。
一歩、足を動かしてみる。意外なほどに軽かった。まるで重力が無くなったようだと思った。きっと、月に行ったらこんな感じなのだろう。そしてその足は独りでに、前へ前へと進みだしていた。自分の気持ちなど関係なく、ただ前へ前へと。
二本の足は深い霧の中、アスファルトの道に沿ってただ歩き続けた。私はその間ずっとその足を見つめていた。特に何かを考えているわけではなかった。ただ、二本のそれが単調なリズムで動いているのをぼぅっと眺めていた。何時間歩いたかわからない。私の中ではもう一日は過ぎたような気がする。
ふいに、顔を揚げてみた。霧は薄くなり、少し先なら見えるようになっていた。どこかで見たことがあるような山道が広がっていた。
ここはどこだろうか。どこであっただろうか。思い出せない。確かに見たことがあるはずなのだ。思い出せない。そもそもどうして私はここにいるのか。
しかしながら、そんな考えもすぐに消えてしまった。足は前へ前へと進んでいく。ただひたすら霧の中を。