第33期 #12

僕の思い出

僕は小4の時に犬を飼い始めた。
親に連れられペットショップに行ったのは初めてだった。
色々な犬が籠に並んでいた。
マルチーズ、チャウチャウ、チワワ。
僕は籠に入れられた犬を見ていった。
結局、僕が買ったのは、ショーウインドウの大きな籠に入れられた子犬だった。
目の上に麻呂の眉毛のような黒い模様が入っているのが気に入ったのだ。
名前はすぐに決まった。ころころしているからコロ。
今考えると安易な発想だ。
この時、コロは僕らの家族になった。
犬を飼う事が初めてだった僕らは試行錯誤しながらコロを育てていった。

何年か経ちコロも大きくなってきた時だった。
親と一緒にテレビを見ていると
「コロなんか震えてない?」
と、親に言われコロを見ると何かをくわえて震えている。
そのくわえていた物は、僕が買ってきたドーナツだった。
怒られると思って震えていたんだろう。
その姿を見て僕は怒るのも忘れて笑ってしまった。

ある時は、僕がこっそり残したおかずを嬉しそうにくわえながら居間に走ってきたりもした。
僕は慌てて隠したが、結局親に怒られる破目になった。

それから僕は、大人になり一人暮らしをするようになった。
家からの距離は遠くなかったが、家に帰ることは殆どなかった。
そして久しぶり家に帰って驚いた。
あんなに元気だったコロが痩せ細りよろよろと歩いていた。
おじいさんになってしまったコロを見て僕はショックだった。

それから程なくしてコロは死んだ。
僕は一人泣いた。声を出して泣いた。
コロという存在が僕の心をこんなにも埋めていたとその時に気がついた。

僕がコロの事をあまり思い出さないようになった時だった。
僕の前に元気なコロがいた。
何だ死んだと思ったのに元気じゃん!僕は嬉しくなった。

でもそれは夢だった。
急に悲しくなって僕は泣いた。
心の奥で願っていたのが夢になったのかもしれない。

今でも僕はコロの事を考えると泣いてしまう。

でも、僕の中では元気なコロが走り回っている。



Copyright © 2005 刻黯 / 編集: 短編