第32期 #4

一瞬

「なぁ、明里・・・。」
もう日がオレンジ色になり始めた頃もまだ渉と明里という少女は教室に残っていた。
「ん?」
明里は首をかしげた。
渉は明里を見たまま固まっている。
「何よぅ。」
明里は半分笑いながら言った。
「・・・なんでもない。」
渉は窓のほうに目をそらすとそう言った。
「変な渉。」
「明里っ。」
教室にその声が響いた。
「ふふっ。今度は何よぉ。」
明里はまた笑っている。
渉はもう1度明里の黒い大きな瞳をみつめた。
胸がドクンドクン言っている。
膝の上の拳を強く握りなおすと渉は口を開けた。
しかし声にならなかった。
「だから何ぃ??」
ほほが赤みをおびていく。
渉は悔しかった。自分に。
“愛してる”という5文字もいえない自分に。
渉はもう1度口を開けから中に力を入れて明里に今の思いを打ちあける。
「愛してる」
と。明里は一瞬驚いた顔を見せたがすぐに笑顔になった。
そしてこういった。
「うん。」



Copyright © 2005 日高 奈々 / 編集: 短編