第32期 #3

大切にします

 あの日は、自分にとっても周りにとっても最後だった。
生きることに疲れたと言い、死んでいく人は大勢いる。
その世の中で、私も考えていた。
死と向かい合うことは、それなりの理由があり、深く切ないことだった。

「買い物に行ってくるね」と親に嘘をつき、ネットで知り合った人に会うと、
知らない場所で知らない人と会話をしながら死ぬ場所を探していた。

 知らない場所も知らない人も恐かったはずだ。
だって、私は対人恐怖なんだもの。
何故か知らないが、死と向かい合うと不思議と前向きになれた。
その理由がわからない。
そんなにも死にたいのか、当時は死にたかった。

 精神薬の大量服薬をして今流行の練炭を使った。
そして見つからない場所で私は相手と二人で死を待ったのだ。
楽しい話をしながら、今まで過去にあったいろんな出来事を語りあった。
 そんな会話を続けてると、私は突然、死が恐くなった。
相手に申し訳ないと言った。
「ごめんなさい、恐くなってきて死ねない」と言うと、
「逃げてもいいから通報だけはしないで」と頼まれました。

 そしてとにかく前を歩き林道を歩いて夜の中、迷いました。
どうしても出口が見つからないので、約束していたことをやぶって通報してしまいました。
 
 相手は助かりませんでした。
借金があり仕事もなく、だから死を選んだ。
この方が亡くなった後、何も出来なくてごめんなさいと言いたいです。
 
 救急車に運ばれて病院へ着くと、胃洗浄が待っていた。
それでも薬の副作用は残り4日は苦痛だった。
 
 私は生きるを選んだ、命は一つしかないし、
死ぬことはいつでも出来る最終手段だと思い直しました。
 
 あの時、死んでいたら、このサイトにお会いできなかったかもしれません。
ありがとうを言いたいです。


Copyright © 2005 千葉マキ / 編集: 短編