第32期 #22

スノードロップ

佐伯一郎はもてない男。ある夜娼婦を買う。出てきた婆さんは眼光鋭く「私を替えると後悔するぞ」と言う。その日の占いに「アドバイスに従え」とあったから一郎は夜の十一時から明け方の五時半まで奉仕し通し、やり通しだった。身体の髄まで吸われた。これから女に不自由しないぞと言われて解放された。半信半疑の一郎は仕事場へ。職場は駅前の花屋。よく店で花を買う女に一郎は惹かれていた。その日はすらすらとお薦めの花をアドバイスできた。女はレジで携帯電話の番号を渡す。女は彩子と言った。待ち合わせの喫茶店に行くと彩子は涙ぐんでいた。話を聴くとかかりつけの精神科医に捨てられそうなのだと言う。内心落胆するが、プレゼントの花束を見立ててあげる。その医者は花が好きなのだと言う。通院のたびに医者が気に入りそうな花を選んでいたのだ。しかし、彩子は毎回毎回涙ぐんで相談を持ちかける。そして、一月の真冬、スノードロップを見つけてくれとせがむ。それはは早春に咲くヒガンバナ科の白い花。まだ出回っていない。それでも暖かい場所に行けばあるかもしれないと一郎は東京の花屋からどんどん南下し探した。全く見つからずこれで最後と入った四国の花屋でスノードロップを求めると、「ある」との声。声の主は婆さんだった。驚く一郎に持って急げと婆さんは言う。一郎は鉢を抱えてその病院に向かう。病院はもぬけの殻。診察室に散乱するカルテなかに彩子のカルテが。そこには「幼児期の虐待による妄想狂。現在の職業は娼婦」とあった。部屋に戻ると無性に女を抱きたくなった一郎は娼婦を呼ぶ。一瞬婆さんが来るような気がした。が、やってきたのは彩子だった。一郎は彩子を抱きすくめる。まるで欲望が湧かない一郎。彩子は不思議がる。彩子の視線の先にはスノードロップが目立たなくも誇らしげに咲いている。彩子は一郎にキスをした。一郎に婆さんの言葉がよぎった。



Copyright © 2005 江口庸 / 編集: 短編