第32期 #20
眠るのが一番いい。そう思った。こんな馬鹿みたいに当たり前に来た休日なんて蹴散らす勢いで寝過ごしてやろう。そんな気持ちだったのだ。どうせここで起きたところで暇を持て余すだろうことは解っていたので、少しばかり自分に反抗してやりたい気分で布団を被った。
暫く大人しくそのままでいたが、いきなり鳴った着信に飛び起きた。まるで私が実は寝ていないのを知っているように、その音は無視しても鳴り続けた。
「…もしもし。」
しぶしぶ取ると、向こうからはただただザー…という軽いノイズのような音が聞こえてくるだけだった。そして少し聞いていると、どうやらそれがノイズなどではないことが解った。
「…いい加減にしなさいよ、明。」
「バレた?」
こんな電話をかけてくる人間は、今まで出逢ってきた中でも一人しかいない。こっちがイタズラ電話と勘違いして切ったらどうするのかというような馬鹿らしい電話ばかりかけてくる。しかも彼はメルアドは聞かずにいつも番号だけ聞いてくる。うっとうしいったらない。友達にそう言った時、その割には楽しそうだと茶化された覚えがあるが、冗談じゃない、と私は思った。
「今さあ、海にいるんだ。」
ああコイツ本当に馬鹿だ。今の時間にいるということは、相当早い時間から行っているということなのに。こんな寒い時期に。どうして私はこんな非常識人間に振り回されているのだろう。いや、非常識だから振り回されるのか。そんなことを考えていると、明はまたふざけたことを言い出した。
「今から来れねえ?」
そんな言葉に、「バーカ。」と言ってさっさと携帯を電源まで切りながら、おもむろに身体を起こす自分が信じられない。そして彼はきっと私が勝手に切った後も、呆然と待っているのだろう。それが解っているからこそ、私は勝手に切ってから出向くのだ。彼はそれからもう掛けてこない。私が携帯を切ることが待ち合わせの合図と化していて、どちらかが来るまでそのプツッという音は言葉のように頭の中で繰り返される。
また睡眠不足になったらどうしてくれんのよバーカ、と毒づいてから、私はそのまま財布一つジャケットのポケットに突っ込んでドアを開けた。