第32期 #19
「キーッ、キキーッ」
和服を洋服にリホームしていた。完成間近に発し始めた音。金属同士が引っ掻き合うような音は、ミシンの内部から聞こえる。ゆっくり動かせば鳴らなかったものが、だんだん、すぐに激しい音をさせた。三十年前に買った職業用のミシン。その頃、既製服の見本を縫っていた。元来洋裁は好きだった。しっかりした勉強をしたわけではないが、発注元のデザイナーには注意をもらうほどではなかった。それに、着ることが好きだから、趣味と実益の兼ねた内職で、楽しみながら八年続けた。辞める二年前に買い替えたミシンだ。
修理屋はミシンを見て言った。
「今、この種のものは製造していないですよ。大事に使えば、三代は使えるものですよ」
修理屋は見積もった金額を言うと、台からミシンを外して持ち帰った。
「いやー、音の方がねぇ」ミシンの修理屋はそこまで言うと、ミシンを台に取り付けた。
「目飛びはバッチシ直しましたけど。音は。一応は見たんですよ。ひとつひとつ分解していけば悪いところに行き着くのでしょうが」
修理屋は、布を用意して電源をいれた。スタートボタンを押す。間をおかずに、凄まじい金属音。慌てて止める。
「長年、この仕事をしてきて、大抵のことは直してきましたけど。今回は何処がどう悪いのかさっぱり分からないですね。申し訳ない」
粗大ゴミとなった職業用のミシン。翌日。
「テレビ、冷蔵庫、パソコン、卓上ミシンなど、大型廃棄物をお引き取り致します」
走って玄関を出た。軽トラックの前に飛び出した。リサイクル屋が言った。
「卓上ミシンじゃないですものね。お引き取りは出来ません」