第32期 #17

偽善者

私の目の前には泣き続ける少年が一人。少年の小さな手のひらには一羽の小鳥が音も無く眠っていた。
「君、ちょっと見せてくれる?」
少年は泣いている顔をこちらに向け、小さな手の中の小さな命を私に預けた。私はそっと目を閉じる。私の手の中の小さな命に出来る限りの私の命を注ぐ。
「わー、シロが動いた! お姉さん、ありがとう!」
そう言って少年は嬉しそう帰って行った。私は、その後姿をいつまでも見続けていた。だんだんと私の意識もぼんやりとしてきた。この力を手に入れたときから私は思う。私は偽善者なのかもしれない。こうなる事も分かっていた。偽善者として生まれ、人の悲しむ姿を見たくないとう理由で、この作業を繰り返してきた私の命が今消えようとしている。
『これで良かったんだ』
『この世界に幸せを』


Copyright © 2005 三剣 玲二 / 編集: 短編