第31期 #19

冬に咲く桜

 雪の降る町で一人の少女が桜の木の下にいた。何をするわけでもなく、ただ何かを待ち続けているように見える。その少女はいつも同じ場所にいる。
 僕はそんな彼女に恋をしていた。ずっと見続けていたいと思うようになり、傍に居たいと思うようになった。
 だけど、僕は彼女に話しかけることも触れることも許されてはいなかった。なぜなら、この世界には僕の体はないのだから・・・。もっと正確にいうならば存在自体がないのだから・・・。

 それから幾年もの月日が流れていた。だが、彼女はこの時の流れの間も同じ場所に居た。僕は彼女を見続けていた。ある日、僕は疑問に思う。「なぜ、彼女はいつも同じ場所に居るのだろう?」と。
 そして、桜が満開になる季節になったある日。彼女は、少しずつ散っていく桜の1枚を手に取り、
「この場所であなたの命と引き換えにあなたがくれた時間を大切に生きていきます。」
 彼女はそう言って、桜の花びらを思いと共に暖かい季節の風に乗せた。 


Copyright © 2005 三剣 玲二 / 編集: 短編