第31期 #17

最後のひとり

 彼が冷凍睡眠カプセルから脱け出ると、そこは殺風景な海岸だった。
 目の前に見たこともない二本足の生き物がいる。頭が銀色だ。
「おはようございます。突然ですが私は宇宙人です」
「すぐ分かったよ」
「さすが地球人類最後のひとりともなると勘の冴えが違いますな」
「いや」彼は宇宙人の爪先から頭までをじろりと眺め見た。「雰囲気でね」
「では私があなたの前に現れた理由まで分かりますか?」
「さっぱりだ」
 彼がそう告げると銀色の宇宙人はとがった肩を揺らして得意げに笑ったように見えた。なにしろ目がひとつだし、口が二つあるから地球人のように表情が読み取れない。
「説明しましょう。私は地球を救済するためにやって来ました。どんな星であれ、その星の生き物がまったく消えてしまうというのは悲しいことです。ですからその星の生き物が最後の一体になった時に、その一体を神様にして再び創造を行ってもらうのです」
「それはすごいねぇ」
「地球科学の先を行ってますから。例えばこの光線銃」
 宇宙人は腰の袋から奇妙な形の銃を取り出した。そして海に狙いをつけて赤い閃光をほとばしらせたかと思うと、次の瞬間には青い海原にぽっかりと大きな穴が空いていた。すさまじい破壊力だ。彼は宇宙人の言葉に納得した。
「しかしどうやって創造するんだ?」
「二回目の創造ですから簡単です。頭に昔の地球を思い浮かべるだけで完全に元の世界に戻るのです」
「じゃあ、また悪人がはびこるのか」
「ええ、昔といっしょですから」
「また、税金がとられるのか」
「ええ、昔といっしょですから」
「また、好きな女にはふられるのか」
「ええ、昔といっしょですから」
「そうか。いやだな、やりたくない」
「やはり失望しますか。他の星の皆様もそうでした。でもご安心ください。そういう方には、二つ選択肢をご用意してございます。一つは私の星にお連れしてさしあげる。勿論大切な最後のひとりですから贅沢な生活を保障しますよ。それに言うなればあなたは悲劇の異邦人ということになりますからね。モテますよ、女性に」
「へえ」
「そしてもう一つは、殺してさしあげることです」
 彼は想像した。銀色の宇宙人と恋に落ちよう。そしてとがった肩に腕をまわし、銀色の頭をかき抱いて口づけをしよう。そこまでは考えた。しかしとても恋心は燃えあがりそうにない。
「いいや、殺して」
「はいそうですか」
 彼の胸板に赤い光線が突き刺さる。



Copyright © 2005 qbc / 編集: 短編