第31期 #10
「大丈夫、なんて言っちゃダメ。俊樹の心はまだ晴れていないっていう事だから。まだ心の中にもやっとしたものがあるってことだから・・・」
怜奈は、「大丈夫だからっ」って、笑って言う僕にいつもそう言った。僕はその通りだと思った。怜奈は、言って欲しいと思う言葉をいつもその時に言ってくれる。なぜだろう?僕は不思議でならなかった。
ピーポーピーポー・・・
「怜・・・奈?」
僕の目の前は一瞬で何も見えなくなった。救急車で怜奈が運ばれた?うそだろ?これは悪い夢だ。早く覚めろよ?!おい?!何度夢だと思い込もうとしても、この事実は変えられなかった。変える事ができなかった。時にはサカラエナイ・・・
「・・・き?と・・・しき?」
怜奈の言葉で我に返った。僕は必死で、普通に、普通にふるまおうとした。
「え?怜奈?呼んだか?大丈夫か?!」
「なに・・・言って・・・んの?だい・・・じょうぶに・・・決まってる・・・じゃない」
「うん。分かった。分かったからもうしゃべるな。」
僕にはもう怜奈が助からない事がはっきりと分かっていた。そう感じ取っていた。でも、それでも、僕のこれからの人生に怜奈がいないなんてこと、認めたくなかった。信じたくなかった。
「ん?」
怜奈が後ろからつついてきた。
「としっ・・・きっ、手、にぎ・・・って?」
「あ?あぁ、うん。」
僕は怜奈の震える手を、その小さな優しい手が壊れてしまうくらい、強く握った。
「としきっ・・・最後まで・・・一緒・・・にいれな・・・くて、ご・め・ん・ね。守っ・・・てあげられ・・・なくてごめんね。怜奈、は、だ・い・じょ・う・ぶ・だから・・・」
怜奈の優しい唇がそっとささやいた。それが怜奈の最後の言葉だった。何が大丈夫だから・・・だよ?怜奈、僕に何度も言ってきた事忘れたのかよ?大丈夫って言うなってっ・・・。
今、なんで怜奈が僕にいつも言ってほしいと思う言葉を言ってくれるのか、分かった気がした。ちゃんと見てたんだ。そう、怜奈は、僕を、心でちゃんと見ていたんだ。