第30期 #20
消したはずのテレビが点いているのは、ホラーな気分だった。テレビの前には生意気そうな吊り目がいて、その目をきゅっと細めている。彼女が痛烈な近視だったことを、しばらくしてから思い出した。暗闇の中で眼鏡も、たぶんコンタクトもしていない。
PS2の低い唸り声が聞こえてくる。テレビ画面には死霊が三人いて、二人撃ち殺され、すぐに一人増えた。兄貴に借りたままになっているソフト。僕はクリアしたのだが、彼女はまだなのだろう。真っ黒なコントローラーをささやかな胸にくっつけて体を揺らしている。少し懐かしい彼女の癖。それにしてもまったくささやかな胸だとあらためて思う。
サイドテーブルに手を伸ばし、飲みかけの烏龍茶を引き寄せた。蓋を開け、喉を鳴らす。僕に気づいた彼女が「起こした?」と一瞬だけ振り返り、またゲームに戻る。
「電気点けようか?」
僕はベッドに横向きになり、斜めに体を起こした。彼女は答えず、ただふるふると首を振った。次々と死霊が倒れ、その度にゲームは進む。ぼんやりと眺めていたが、闇に慣れてきた僕の目が、ふと彼女の服装に気づいた。
「スカート?」
「……うん」
私服のスカートは初めてだった。短めのスカート。同じクラスだったから制服のスカート姿は見慣れていたが、それは随分と長めだった記憶がある。
「一志が見たいって……言った」
彼女が口を尖らせながらぼそぼそと呟いた。決してテレビから目を離さない、そのわかりやすい態度に僕はつい笑ってしまった。
「似合うよ」
彼女の頬がほのかに赤く染まった気がした。
さくさくとゲームは進み、何回かのコンティニュー。次第に窓の外は明るくなり、やがてPS2の唸り声は止まった。彼女はスカートを気にしながら立ち上がり、グッと伸びをした。
「行くね」
「ああ」
「じゃあね、一志」
「じゃあな」
簡単な言葉を交わし、軽く手を振り合う。
彼女はもう一度「じゃあね」と言った。僕をじっと見つめて、ぎこちなく笑って、それからゆっくりと消えた。
彼女がいた場所をしばらく眺めていた。布団を被り、目を瞑った。彼女と兄貴のことをぼんやりと考える。彼女は痛烈な近視で、そして「一志」というのは兄貴の名前だった。
兄貴に今のことを話したら、どんな反応をするだろう。不機嫌になるだろうか。けれどもう、悲しそうにはしないだろう。
「あいつらしいな」と薄く笑う兄貴を思い浮かべて、「ドジだなぁ」と僕はそっと呟いた。