第3期 #13

彼女はおしゃべり

 彼女はおしゃべりで、僕は無口だから、たとえばこんな調子だ。
「だからさ、カエルの話ね。自転車こいでたら、いきなりカエル。びっくりでしょ? それも、でっかいの。あれたぶんウシガエルってやつ。見たことあるもん、テレビかなんかで。本かもしんない。あ、本だ本。図書館だよ、駅前の。あそこのおばさん、すっごいヤなヤツなんだ。こないだミキがね、ほらミキ、会ったことあるよね? あのミキが本かえしに行って、たった二日おくれなのに、なんかすごい怒られたって。それでサチが、そのときいっしょにいたんだけど、あのコすっごい短気なんだ。それでキレちゃって、十冊くらい借りて、もうかえさないとか言ってた。意味なくない? そんなの」
「うん」と、僕。「でもサチってだれ?」
「あ、知らない? サチ。ほら、こないだ文化祭で、なんかやってたじゃん。なんだっけ、棒ふりまわすやつ。で、そう、サチって、すっごい短気だから、昨日、三組の林、って一年とき同じクラスだったでしょ? あいつ階段で下からサチのパンツ見てたんだ。それで、気づいたのはミキだったんだけど、サチに教えたわけ。そしたら、サチって短気だから、キレちゃって、ウワバキ脱いで、林に投げたら顔にあたって、あいつ今日、眼帯してたでしょ? あれたぶん、サチのせいだよ」
「ああ、バトン部の」
「そうそう、バトン部のサチ。で、それはいいんだけど、カエルの話ね。昨日の夕方、雨ふってたでしょ? ミキから電話かかってきて、すぐこいって。それで、雨んなか傘さして自転車こいでたら、ミキんちの近くで、カエルがいたわけ。でっかくてキショいの。いきなり道路にいて、びっくりしてハンドルきったら、むこうから歩ってきてた人にぶつかって、その男のコ、傘ささっちゃったみたいで顔おさえてしゃがんでんの。ヤバって思ってソッコでミキんち着いたんだ。そしたら、ついさっき林がきて、サチのパンツ見てたんじゃなくてミキのこと見てたんだって言われて、それでコクられたって。ミキが林に。で、どうしようって相談されたんだけど、けっきょくオッケーするみたい。でも、かわいそうだよね、林の眼帯。サチあやまんないと」
「林の眼帯って、おまえのせいなんじゃないの?」
「ハア? なんでそうなるわけ」
「いや、なんとなく」
「なにそれ。ちゃんと話きいてる? カエルの話だよ。で、カエルってさ――」
 こんな調子だから、僕はいっそう無口になるのだ。



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