第3期 #1
僕はとろとろのポタージュになっていた。
ポタージュでいることは何と心地よく、そして甘美なのだろう。僕の形は完全に失われていた。体の一部にはまったく力が入らず、また別の一部にはこれ以上ないほど力がみなぎっていた。彼女の指はとても直視していられないほどのなまめかしさで、僕を絡めとり、ばらばらにほどいた。
「私は、手だけで男をいかせられるわよ」
そもそもは、彼女がそう言い出したからであった。しかも彼女が言うのは、相手の手をマニピュレートするだけで、という意味らしかった。僕は興味を覚え、じゃあ試させてよ、と左隣の彼女に、近い方の手を差し出した。つまり左手だ。手の平は上? それとも下?
「ご自由に」
彼女は微笑んだ。
友人の結婚式の二次会で、僕は彼女と出会った。髪の長いなかなかの美人で、スタンド・カラーの黒ジャケットがおそろしく決まっていた。スリットの入った白いタイト・スカートからのぞく太ももは、流麗な曲線を描きつつ、カウンターの下へと消えていた。
彼女の手は滑らかで、しっとりと温かく、造詣も見事だった。細い指は、コレクション・ボックスにずらっと並べて飾っておきたいくらい美しかった。
「じゃあ、始めるわよ。力を抜いて。自分の手じゃないみたいにね。ここから先は」
と言って彼女は、僕の手首にそっと人差し指で線を引いた。
「もうあなたのものじゃない。私のものよ」
そうして彼女は、僕をポタージュにしてしまったのだ。始まっていくらも経たないうちに、僕はうまく息ができなくなった。ポタージュは息なんかしない。やがて、体の中心をまっすぐに降りてきた快感は、過たず僕の男性自身を直撃した。あっという間にそれは凝固して、さらに成長しようともがいた。彼女の指は、僕の指と指の間に入りこみ、優しく擦り、そして手の平にもぐりこんで、奔放な旅を続けた。その足跡は僕をひどく狼狽させた。さっき彼女が引いた手首の線より先は、彼女が言ったとおり、僕のものではなくなっていた。
「ポタージュになったみたいだ」
僕は自分のものとも思えない掠れた声で言った。彼女はまた微笑んだ。
「彼もそう言ったわ」
「彼って?」
「今日の新郎」
僕は言葉を失った。快感がさらに強く僕を突き動かした。僕は解放を願った。
「いきそう?」
彼女が耳元で囁いた。僕の理性はいくなと言っていた。でも……。
「ご自由に」
その瞬間、熱いポタージュが僕の下着の中に注がれた。