第3期 #2
6年2組の同窓会はありふれたものだった。子供時代を共有した連中との再会は楽しかった。昔話は尽きることがない。
「ノッチン? あいつ中学のとき死んだぞ。新聞にも載ったらしいしな」
誰かが放った言葉に俺は打ちのめされた。宴会場の楽しげなざわめきはもう聞えない。郷愁に酔いしれた心地が四散する。
ノッチン。隣に住んでいた幼なじみだ。落ち着きが無く、ドモリがひどくて、いつもニコニコと笑顔ばかり浮かべていた。
彼はいつも分解をしていた。粗大ゴミの収集日にテレビやラジカセなんかを拾ってきて、ドライバーで器用に解体する。ネジは大きさ別に、部品は取り外した順番に並べ、小さいな歯車やバネも余すことなくバラしていく。
分解が終わると格好いい部品を2つだけ取り除き、ノッチンの両手がまるで別の生き物のように動いて驚く早さで組み立てる。そして、部品を一つ僕にくれるんだ。精密に巻かれたコイル。都市が縮小されたような基板。複雑に絡んだ歯車。どれも、素敵な宝物だった。
俺は二次会を断った。今夜はとことん飲むつもりだった。有給を取ってまで、参加した同窓会だったが、もう無意味だ。
「先生それでは。お元気で」
挨拶してきびすを返すと、担任は俺の肩に手をかけた。
「少し、野口君の事で話しがあるんだが。いいかね?」
担任はノッチンと俺が仲が良かったことを覚えていたようだ。
「野口君は… ノッチンはどうなったんですか」
僕は小学校を卒業すると引っ越した。ちゃんとお別れを言ったのに、ノッチンはニコニコしながら電気カミソリをバラしていた。それが最後に覚えているノッチンの姿だ。
担任は俺を最寄りの駅に連れて行った。その道すがら、彼は進学した中学に馴染めずに登校拒否になったことを教えてくれた。担任は出過ぎた真似と知りながら卒業後もノッチンの面倒をみていたようだ。
「野口君は、ゴミ集積場の崩落事故に巻き込まれてね…」
担任は、駅構内のコインロッカーから取り出した紙袋を俺にくれた。
「野口君の机に大事にしまってあった。これは君の物だ…」
ズシリと重い紙袋の中身は、古びたクッキー缶だった。フタを開けると、いろんな部品がギッシリと詰まっていた。
「この、丸くて光っているのがあるだろ。野口君が最期に握っていた部品だ」
何か特殊なメッキが施されているのだろう。とてもキレイな部品だ。
僕はクッキー缶を抱きしめて泣き崩れた。