第29期 #5

わかげの至り

ミツローはこの日、ついにユメコを押し倒しにかかった。
「もう限界です。あなたが年上だってなんだって、もう・・・」
「何を言ってるの、ダメだったら」
ユメコは身体をよじってミツローの手から逃れようとする。
ミツローは、一度は取り逃がしてしまったユメコの魅惑的な身体を、もう一度しっかりと捕まえなおした。
ユメコはそれでもおとなしくなってくれない。
「なぜです、僕が男であなたが女。理由はそれでじゅうぶんだ」
ミツローはとにかく事を起こしてしまおうとした。既成事実さえ作ってしまえばいいのだ。だってユメコだって本気で嫌なはずがない。昨日は僕の囁きに頷いてさえくれたのだから。
「やめて!だめ、お願いだから待って!」
鼻息荒くユメコの上にのしかかったミツローは、ユメコのあまりの必死さに思わず動きを止めてその瞳を覗き込んだ。
「・・・なんです?」
「あのね、あの・・・私、どうしても話しておかなきゃいけない事が」
「それってどうしても今じゃないといけないの」
ミツローはもうじらされるのは嫌だった。早く早くと、身体が自分を急き立てる。
「私があなたの立場なら、最初に話して欲しいと思うわ」
「・・・じゃぁ、聞くから話して」
それほど言うならよっぽど大事な事に違いない。
「えっと・・・あの。実は、私・・・」
ユメコは言葉を詰まらせた。その顔が真剣で思い詰めた感じだったので、ミツローも思わず身を乗り出して次の言葉を待った。
「実は私、・・・子供を産んだ事があるの」
「えっ・・・」
ミツローは石のように硬直してしまった。


「しないねー、交尾」
「ちぇー、さっきまでしそうだったのになーっ。しないんならもういいや、タローの見方してやろー」
拓也は檻に手を入れ、端っこでくうくう眠っているタローの身体を指でつついた。
「おいタロー、起きないとお前のおよめさんミツローに取られちゃうぞ」
硬直したままのミツローのまわりで、ユメコが産み落としたタローの子供が7匹、うぞうぞと動き回っている。


Copyright © 2004 広田渡瀬 / 編集: 短編