| # | 題名 | 作者 | 文字数 |
|---|---|---|---|
| 1 | 死神が、枕元に立っている! | 阿多見 | 999 |
| 2 | 星の記憶 | OS | 985 |
| 3 | あたらしい命 | こるく | 1000 |
| 4 | 一日だけの転校生 | euReka | 1000 |
ある日のことです。忙しい一日を終えて、さて、眠りにつこう、と布団に潜りまして、暫くの後、ふと目を開けましたら、死神が足元に立っていました。
いったいどういうことか、と驚いていると、グリム童話に似たようなおとぎ話があるのを思い出しました。それは、死神が病人の助かるかどうかの見分け方を教えてくれるといったおはなしでした。その方法は、たしか、死神が枕元に立っていれば、その病人は助かり、足元に立っていれば、死ぬ、といったもので、これを利用して、おはなしの主人公は世界一の医者になったのでした。
これは大変なことになりました。どうやら、ぼくは死ぬみたいです。しかし、そのおはなしを読んだのは随分前のことで、枕元と足元で、どっちが助かってどっちが死ぬのかの記憶も曖昧でしたから、一応、聞いてみることにしました。
「あの、これってぼく、死ぬのですか」
「そうだ」
いよいよ困りました。まだぼくは死にたくないのです。まだ若いのだし、これまであまりいい思いをしてこなかったのだから、これからきっと良いことがあるはずだと思うと、今死ぬのはあんまりです。
どうにか死を免れる方法は無いものか、と考えていると、グリム童話のおはなしに、解決策が描かれていたのを思い出しました。おはなしでは、主人公の医者は、布団を回して、枕元と足元を逆にすることで、死神をだまして、死ぬ運命にある病人を助けていたのでした(何度も死神をだました結果、死神が怒って、主人公は死んでしまうのですけれど)。
これを試さない手はありません。しかし、おはなしでは、布団を回してくれる人がいましたが、今はぼく一人きりですから、なんとか死神の目を盗んで、体勢を逆にして、枕元と足元を入れ替えるしかありません。
「死神さん、死ぬ前に、お月さまが見たいのです。どうか窓を空けてくれませんか」
「いいだろう」
死神が窓を空けている間に、急いで枕元と足元を入れ替えます。
「どうだ、今夜は満げ……あっ!」
枕元と足元は、すっかり入れ替わっています。
「きさま、わしをだましたな。こんどだけは、大目に見てやる。だが、もういっぺんやってみろ。きさまの命はないぞ」
そういうと、死神はすーっと消えていきました。あぁ、怖かった。しかし、また死神に足元に立たれては、今度こそ死んでしまいます。そこで、足元に枕を置いてみますと、もう二度と死神はやってこないのでした。
ハンディカメラのレンズ越しに、祝福の情景が映る。白いドレスに身を包んだ新婦、緊張した面持ちの新郎。スクリーンには、いま、撮影されている世界がそのまま映っている。披露宴会場の円卓では、笑顔の観客たちがグラスを傾け、思い思いに話している。時折、冗談を投げて、新婚の二人は照れたように笑う。カメラを持つ人物が問いかける。
「三つの大切なことは何ですか?」
若い花嫁はお腹に手をそえる。膨らんだお腹を撫でながら、言葉を探る。音声は聞き取れず、 口元だけが動いている。
ノイズが入り画面が乱れる。光が戻り、カメラがズームした先にいたのは、大人になった娘だ。彼女もまた純白のドレスに身を包み、同じ場所で結婚式を迎えている。会場のライトが花嫁の横顔を照らす。母と似た仕草でお腹に手を置く。映像の中の母が語った「三つの言葉」が、記憶から浮かび上がる。彼女はそっと目を閉じる。あの声が、残響となって胸に響いている。
やわらかな風がそよぐ。小春日和の空の下、娘と子どもたちが遊んでいるのは、かつて母と娘が通った古い教会だ。木造の廊下が軋み、埃をかぶったパイプオルガンが放置されている。壁のひび割れからは、湿った黴の匂いが漂う。小さな影と無垢な笑い声が、こだまのように廊下を抜けていく。
この建物は、母が若い頃に熱心に通い、仲間と歌い、夕暮れの赤い残光の中で何度も泣き笑った場所だった。老朽化のため、まもなく取り壊されることが決まっている。
娘は窓辺に立ち、走り回る姿を見つめながら、静かにつぶやく。
「ここで、ママも遊んだのよ」
子どもたちが一斉に振り返り、微笑む。娘は何か言いかけたが、喉がつまって声にならなかった。表情が次第に虚ろに変わっていく。
風景が揺らぐ。教会の壁や、廊下を駆ける影、窓辺に立つ娘、かつての仲間たちの笑い声、賛美歌、牧師の祈りの言葉、幼い声が混ざり合い、砂のように崩れ落ちてゆく。
それは、母の記憶の断片だった。
病室のベッドで、老婆は目を閉じている。娘は節の浮いた指でその手を包む。若者たちが不安そうに、二人を覗きこんでいる。痩せた胸が大きく上下し、最後に止まる。掌の中で、母の手は急速に温もりを失い、固くなってゆく。
その瞬間、夜空に一つの星が瞬く。宇宙の深淵で、記憶の粒がたゆたい、やがてブラックホールに吸い込まれていく。その微光は、誰かの中で今も輝いている。
ついに恐れていた事態が起きてしまった。購入して十年、随分と無理して手に入れたドラム式洗濯機が原因不明のエラーを頻発して使い物にならなくなった。けたたましい警告音と共に、液晶には「E02」という理解のできない表示が繰り返される。
「新しいのを買えば良いじゃないか」と夫はこともなしに言う。もちろん、買い替え時であることは承知しているが、金銭に無頓着なその態度に腹が立つ。来年には、勇太の高校受験を控えているのだ。塾代やら進学費用やら、今は少しでも出費を抑えたい。
そんな気持ちを露ほども知らず、当の息子はソファに寝転がってスマホに夢中だ。この頃は、思春期というやつなのか自分のことなど少しも話してはくれなくなった。楽しいのか悲しいのか。無表情な息子を見ていても、私には何もわからない。大袈裟な警告を与えてくれる洗濯機の方がまだ可愛げがあるかもな、と思ってしまう。ジロジロ見られていることに気が付いたのか、息子が「何?」と怪訝そうに言った。
結局、洗濯機は修理を呼び、哀れな延命治療を施されることとなった。
出張修理が来る予定の朝、時間よりも随分と早く家のチャイムが鳴った。こちらの準備もままならない。文句の一つでも言ってやろうかとドアを開ければ、見知らぬ夫婦と母親に抱えられた小さな赤ん坊がいた。
「あ、僕たち近所に引っ越してきまして」
そう男が挨拶する。
「これ良ければ。つまらないものですが」
菓子折りを受け取り、ご丁寧にどうもと私も返事をする。近隣に分譲住宅ができたことは知っていた。不機嫌そうにドアを開けた自分を少し恥じてしまう。
二人とも慣れない育児に奮闘しているのだろうか。随分とやつれて眠そうに見えた。せっかくだし、何かお返しでもと思ったところで、赤ん坊が大声で泣き始めた。夫婦はオロオロと慌てている。
「ああ、突然ごめんなさい」
母親が申し訳なさそうに言う。
彼らの様子を見て、私は昔のことを思い出していた。まだ勇太が小さい頃、夜中に泣き始めて何もできずに時間が過ぎるのを待つしかなかったことを。初めて乗った電車に怖がって、目的地までずっと泣き続けていたことを。彼が拙い手段で精一杯感情を伝えようとしていたあの頃を。私もまた、腕の中の柔らかく温かい新しい命を、理解しようと必死だった。
私は小さく笑う。
「わからないことばかりだよね」
赤ん坊は洗濯機のように、けたたましく泣き続けている。
夏休み明けの朝の教室に、見知らぬ女の子が入ってきた。
「佐久間サクラさんは、サンフランシスコから引越してきたばかりで、いろいろ分からないこともあるから、みんなで助けてあげましょうね」
先生がそう紹介すると、彼女はペコリと深くお辞儀をしたのだが、そのときランドセルがべろんと開いて、筆箱や、何かの白い生物が床に落ちた。
「ててて、何だよサクラ。オイラ、気持ちよく寝てたのに」
彼女は慌ててその生物を拾い上げると、これ喋るぬいぐみなんだよねはははと笑ってランドセルの中に押し込んだ。
クラスのみんなは彼女の笑顔につられて笑っていたが、僕は白い生物の鋭い瞳と一瞬目が合ったような気がして少し怖くなった。
学校が午前中で終わり、友達と少し遊んだあと家に帰ると、なぜか佐久間サクラが居間のソファにいた。
「おかえりなさい。あなたにちょっと話があって」
僕は驚いて自分の部屋へ逃げたが、彼女はお菓子とジュースをのせたお盆を持って、僕の部屋に入ってきた。
「教室で、あなたと目が合った白い子はラミーっていうの。どこか別の世界から来たんだって」
そう彼女に紹介されると、白い生物は僕を睨みつけた。
「オイラ、前の世界で何千人も人を殺してこの世界に逃げてきたんだ。白くてふわふわした姿は、あくまでも追手の目を誤魔化すための変身なんだからな。カワイイとか言ったら一秒でお前を殺すからな」
佐久間サクラは白い生物のことを秘密にして欲しいと言ったが、人を沢山殺したのなら罪を償うべきで、そいつの秘密を守ったり保護したりする気持ちにはなれなかった。
「おいサクラ、こいつオイラたちを全否定したぞ。やっぱり秘密を知られた以上殺すしか……」
すると突然、部屋の窓ガラスが割れて黒い甲冑兵が現れ、白い生物と佐久間サクラの体を一瞬で抑え込んだ。
「お騒がせしてすみません。割れたガラスは弁償しますから」
次に日学校へ行くと、佐久間サクラの席になぜか黒い甲冑兵が座っていて、クラスの注目の的になっていた。
「佐久間サクラさんは急な事情で転校されましたが、今日転校してきた甲冑姿の倉田クララさんは、久留米から引越してきたばかりで……」
僕はまず、甲冑兵が女の子だったことに驚いた。
そしてとにかく関わらないようにしようと思ったが、休み時間に席を立つと倉田クララに腕を掴まれた。
「一度学校というものに行ってみたかっただけなの。明日は転校するから安心して」