| # | 題名 | 作者 | 文字数 |
|---|---|---|---|
| 1 | あっち向いてホイ | キノ | 1000 |
| 2 | 口コミ | 蘇泉 | 675 |
| 3 | 泥棒 | 阿多見 | 997 |
| 4 | 地下鉄とファーストフードと少女 | euReka | 1000 |
ある雨の降りしきる薄暗い日だった。放課後、私たちはクラスの何人かで集まって怖い話をすることになった。各々が知っている怖い話を、順番に出し合っていく。一通り話し尽くした時、一人が口を開いた。
「鏡の中の自分とあっち向いてホイをする方法知ってる?」
私も含めて、みんな首を横に振った。
「知らない」
「私も。聞かせてよ」
彼女が言うには夜中の午前2時、三面鏡の前で行うのだという。
「先輩から聞いた話なんだけど、真っ暗な部屋でロウソクを一本だけ灯すの。もちろん一人きりでね。そして、鏡にいる自分とじゃんけんする」
「なにそれ。あいこになるだけじゃん」
わっと、みんな笑った。けれど、話している本人は真剣な顔つきで続ける。
「そう。普通はあいこになる。だって鏡だもん。でもね、何十回も続けていたら、向こうが違う手を出すんだって」
「……鏡にうつる自分がってこと?」
「そう。で、じゃんけんに勝って、あっち向いてホイも勝ったら願い事が叶う」
「そうなの?」
「うん。どんな願い事でもいいみたい」
「えー夢みたいな話。ちょっとたのしそう」
「けどね。……もし、じゃんけんに負けて、あっち向いてホイでも負けたら、鏡の中に引きづり込まれて戻って来れないって」
その言葉に、みんなの顔がこわばった。
「なにそれ。やだ怖い」
「待って。ちゃんと逃げ道もあるんだよ。じゃんけんに負けたら、すぐにロウソクを消せばいい。そしたら、このゲームを強制的にやめることができるみたい」
「向こうがあっち向いてホイを始める前に、ロウソクを消すってこと? そんなうまくいくかな」
「……やったことないから、わからないけど、たぶん」
「えぇ、無理無理」
「怖すぎて絶対できない」
口々にそう言う中、一人がゆっくりと手を上げた。
「私、興味あるかも。部屋に三面鏡あるし」
「えー、やめときなよ」
「面白そうだもん。今日の夜、やってみよっかな」
周りは止めたけれど、本人はやる気満々だった。
「じゃんけんに負けたら、ロウソクを消せばいいだけ。あっち向いてホイをしなければいいんでしょ?」
「でも、もしロウソクがうまく消せなかったら……」
「平気よ。そもそも、どうせ作り話なんだから」
笑いながらそう言って、帰っていった。
翌日、その子は行方不明になった。母親の話によると、朝起きたら、娘が忽然と居なくなっていたと。鏡の自分に負けたんだ、と私は悟った。それ以来、三面鏡が恐ろしくて見れない。
レストランの店長が経営者に報告していた。
「売上もキャンペーンも順調です。ただ……例の口コミが、今日は投稿されていません。」
社長は首をかしげた。
「例の誹謗中傷のコメントですか?」
「はい。実は昨日もありませんでした。毎朝八時ごろ、必ず投稿してくるのに。二日続けてないのは初めてです。」
「もう二年になるんでしたね。」
「ええ。あのお客さん、二年前に来店してから、何が不満だったのか分かりませんが、毎日欠かさず中傷を書き込んでいました。年末年始もです。それが突然止まりました。」
社長は腕を組んだ。
「急にやめるとは考えにくいな。病気でもしたんじゃないか。」
店長は戸惑った表情を浮かべた。
「ですが、どこに連絡を? 中傷が止まったから心配だ、では警察も困るでしょう。」
社長は少し考えてから言った。
「顧客データに電話番号があるはずだ。地域の見守り窓口に相談してみよう。“常連客と連絡が取れない”なら理由として十分だ。」
「あれだけ毎日書き込んでいた人だ。何かあったと考える方が自然だろう。」
「分かりました。」
翌日、店長から連絡が入った。
「社長、例のお客さんは一人暮らしで、体調を崩して倒れていたそうです。相談を受けた市が救急隊を手配し、無事に病院へ搬送されたとのことです。」
「そうか……よかった。」
一週間後。
同じ口コミサイトに、店を絶賛する投稿が現れた。
——料理も接客も素晴らしい店です。命を救っていただきました。
そして翌朝八時。
また一件、称賛のコメントが投稿された。
社長は苦笑した。
「……あの投稿がまた途切れたら、そのときは本当に大ごとだな。」
人間は、全く嘘であると思います。一種の、あほらしい感じがしてきます。羊の頭に狗の肉とは、ああいうものを言うのではないでしょうか。
私が小さな頃は、嘘つきは泥棒のはじまり、とよく言いました。そうして、どんなに小さな嘘でも、大人から叱られました。嘘はいけない、嘘は泥棒のはじまりだ、と耳にたこができるほど聞かされましたから、素直な私は、それをまるっきり信じ、嘘をつかぬよう、心がけてましたし、世の大人は、嘘などつかぬ、立派で誠実な者ばかりだろうと思っていました。
しかしその予想は裏切られました。人間は、まったく嘘でした。嘘でつくりあげられている、と言っていいと思います。 政治家なんか、一等分かりやすい例です。彼らは、選挙のときには、それはもう、涙が目に浮かぶほど、感動の大義名分のもと、公約を掲げまして、その公約を読むと、はぁ、これは一体、素晴らしいものだ、こうなれば、日本は、我々は、大いに発展するだろう、とひどく感嘆して、そうしてその党に票を入れて、いざ第一党になりますと、公約などいざ知らず、そんなものは、はなから掲げてすらいないという顔で、それはもう好き勝手、私腹を肥やすのです。…………。
先日、療養のために生家に帰り、やるべきこともなく、炬燵に脚を入れて、横になってただ只管本を読む日が続いた後、とうとうそれにも飽きて、ふらふらとその辺りをうろついているうちに、古い友人に会いました。
「やあ、随分、懐かしい顔だ。帰ってたのか、どうだい、調子は」
「まぁ、ぼちぼち、可もなく、不可もなく、ってやつさ。それより、お前のほうこそ、随分、事業をうまくやってるって聞いたぜ」
嘘です。この男は、会社員でそれなりうまくやっていたところを、なにやら自分を過大に評価して、社を辞め、貯金を全部はたいて、事業を始めたのですが、つい先日破産したそうなのです。つまり、この男が嘘をつくかどうか、かまをかけてやったのです。
「あぁ、やっと、軌道に乗ったってところだ。大変だったんだぜ。しかしまぁ、金払いは、今のほうが断然良い。お前も、是非ともやったほうがいい。」
嘘です。真っ赤な嘘なのです。
人とはやはり嘘をつく生き物、つかずにはいられない生き物なのです。
「そうだ、ところで、先日お前に貸した二万円、あれはどうなった」
「なんのことだい、おれは、おまえから金なんか、一円も借りちゃいないよ」
地下鉄の電車に入ると、床には「ここは地獄だ。言葉さえ通じない」というスプレーの落書き。
車内はゴミのような匂いがするし、生きてるか死んでるか分からない人が横たわっていてたしかに地獄だ。
しかし、言葉は通じるはずだと思って私は隣に座っていた男にハローと声をかけると、その男にいきなり胸ぐらを掴まれた。
「俺はハローという言葉が世界で一番嫌いなんだ!」
私は声をかけたことに後悔した。
「ハローなんて、友達みたいに近寄ってきて相手を騙すだけの言葉だろ?」
まあ今度あんたに会ったときは言葉に気を付けるよ、と私は言って男の手を何とか振りほどき、次の駅で電車を降りた。
地下鉄の階段を昇って地上へ出ると、夜のネオンが眩しくて目が痛い。
おまけに、暗い空から白い雪も降っていて死ぬほど寒い。
私はくたびれたYシャツしか着ていないから、体温を奪われないために、とりあえず目の前にあったファーストフード店へ駆け込んだ。
店のカウンターの奥には、店員らしき老人がパイプ椅子に腰掛けながら眠りこけており、私が声を掛けてもまったく起きない。
「ハロー!」
そう声がする方を振り返ると、十歳ぐらいの少女が店の奥にある席からこちらを見ている。
店はこじんまりとしており、老人とその少女以外誰もいない。
「そのお爺さんは二十四時間勤務で今は休憩時間なの。でも帰る家もないから店で眠ってるわけ」
私は少し面食らいながら、熱いコーヒーを一杯頼みたいのだけど、どうしたらいいかと少女に質問した。
すると少女は面倒臭そうに席を立ち上がって店の厨房に入り、三十秒後にコーヒーの入った紙コップを私の目の前に置いた。
私は少女にお金を払って一度深呼吸をし、店のカウンターで熱いコーヒーをずるずると啜った。
「このお爺さん、たぶん昨日から死んでると思うんだけど、どうしたらいいかな?」
まあ人間には寿命があるから仕方ないさ、と私。
「じゃあ、お爺さんの代わりにあんたがこの店で働いてよ。二十四時間勤務で給料もないけど、食べ物はあるから何とか生きていけるよ」
ファーストフードを一生食べ続けるなんて、嫌だなあ。
「ねえお願い、このままじゃあたし一人ぼっちになっちゃうよ。ねえお願い、助けてよ」
私は、行くあてもないから結局ファーストフード店で働くことになったが、客は一人も来ない。
それに、少女は何年たっても歳を取らない。
ただ、私が無駄に歳を取るだけだ。