| # | 題名 | 作者 | 文字数 |
|---|---|---|---|
| 1 | 苗字 | 蘇泉 | 827 |
| 2 | ずっと、このままで | 初夢なすび | 966 |
| 3 | 十二支の島 | 三浦 | 851 |
| 4 | 世界を救うというのは | euReka | 1000 |
| 5 | エニシ | 佐山 | 652 |
「ウチは苗字が珍しい。全国に百人くらいしかいないんだ。だから悪いことは絶対にするな。悪名は一瞬で広まるからな」 祖父から父へ授けられた教訓を、私は耳にタコができるほど聞かされて育った。
そのおかげで、私の青春は至って穏やかなものだった。喧嘩は一度もせず、カンニングとも無縁。就職活動で履歴書を盛る勇気もなく、仕事でズルをすることもない。「苗字が珍しいから、善行を一つ積めば一気に有名になれるのでは?」と考えたこともあったが、そんなドラマチックな出来事は起きなかった。
メリットといえば、営業先で一発で名前を覚えてもらえることくらいだ。初対面の得意先には必ず「珍しい苗字ですね!」と言われる。ただ、名前の方は平凡なので、結局「珍しい苗字の彼」としてしか認識されないのだが。
そんな代わり映えのしない日々を送っていたある日、ニュースが飛び込んできた。 同じ苗字を持つ研究者が、世界的な賞を受賞したというのだ。
「へぇ、百人しかいない同姓の中に、こんなにすごい人がいたのか」 他人事のように感心していたが、私の生活は一変した。 レストランを予約すれば「あの科学者のご親戚ですか?」と聞かれ、否定してもなぜか食後のデザートをサービスされる。買い物でカードを出せば店長が飛んできて「同じ苗字の方にお会いできて光栄です」とおまけをくれる。営業先でも、まるで私が偉業を成し遂げたかのように歓迎される。
「いや、本当に偶然なんですよ」 そう説明して回るのもいい加減疲れてきたが、悪い気はしなかった。
久しぶりに実家へ帰り、父にあの科学者の話題を振ってみた。 「ああ、彼か。……実はな、相当遠い縁だが、一応親戚なんだよ」 父がさらりと言ってのけた。
「……えっ?」 驚きはしたが、同時に妙な納得感が胸に落ちた。 他力本願ではあるが、ようやくこの苗字が、私に本当の「利益」をもたらしてくれたのだ。 私は心の中で、今日まで遠慮していた過剰なサービスを、明日からは謹んで受け取ることに決めた。
それはまるで
トクベツになったような
私じゃなくなったような
親からのプレッシャー。
顔を見るだけで嫌なアイツ。
次のテスト。
面倒な学校行事。
周りの視線。
腕が振られ、
足が動いて、
首が傾いていく。
スマホを落としそうになり、指に力が入る。
数字が、更新され続けていく。
大きくはないが小さくともない。
でも私の中では小さくない。
「バズ……る?」
きっかけは、ただの気まぐれだった。
検索したら一つも無かった。
踊った、投稿した。
さすがに顔は隠した。
クローゼットから衣装を出して。
まずはイメージ。
曲が始まった。
足を出す
膝を曲げる
「うわっ!」
足を出す
これを続けた。
そして本番。
カメラに緊張。
もう一度足を出す。
始まる。
踊る。
終わる。
チェック。投稿。
そっとしておく。
何日かして。
気になった。
増えてた。
……すごい。
他人事。
私じゃない。
でも私。
アニメが流れる。
引かずに
前に出る。
足が上がって
腕が曲がる
部屋が回る
首が曲がって
腰が引ける
テレビ消す。
カメラ置く。
もう一度。
チェック。投稿。
そっとしておく。
数日後。
伸びる。
前以上。
ダンスの曲。
流行ってる。
指を指す
目が閉じられる
つま先を立てる
口が開く。
わからない。
お店で新しい衣装を買いに来た。
今までとは違うダンス用の衣装。
コレを着たら「違う」になれるかも
流行っているダンスの曲が終わった。
次の曲は最初に踊ったダンスの曲。
私が一番好きな曲。
「ねぇ、このリップ私に似合う?」
「男の俺に聞かれてなぁ」
聞き覚えのある声。
同じクラスのカップル。
私が、ズレてる
「昨日観てた動画なんだけどね」
「ダンスの話はもう飽きてるんだけど」
「とにかく聞いて! 最近伸びているダンスの動画で歌っている人がいたの。顔は隠れているんだけどね」
ダンス
隠す
……歌?
「その声が縫衣ちゃんに似てるんだよね」
え、私?
「ヌイ?」
「うちのクラスの陽ノ影縫衣だよ」
やめて
音楽の時間
歌
癖
言わないで
やめて
「やめろよ」
え?
「アイツのことよく知らないし」
「……そうだね」
この衣装、あの子が好きそう。
「……そろそろかな」
でも動けなかった。
「この曲なんか、ねぇ……」
「だな」
海にいるはずだが沢山の獣の声を聞いた気がした。
神は言った。その者を里に帰してはならぬ。
海は大時化。青年が乗る船は川に流される猫のごとく揺れに揺れた。
目を覚ました青年は見知らぬ浜にいた。
お前が一番乗りだが、どうやら人間のようだ。数には入れぬ。
煌びやかな出立ちの男が青年に言った。
男はそれきり何も言わないので青年も何も言わなかった。波の静かな音だけが繰り返し浜に響いた。
そこへ、鼠が現れた。鼠は男の足下に止まると、鼻をぴくつかせて短く鳴いた。
お前が一番乗りだ。
男はまるで鼠に話しかけるようにそうやって言った。
そこへ、茂みががさごそする音がして、牛が現れた。牛は男の前で止まると、頭を上下に振りながら短く鳴いた。
お前は二番目だ。
男はまるで牛に話しかけるようにそうやって言った。
そこへ、また茂みががさごそする音がして、今度は虎が現れた。虎は男の前にちょこなんと座ると、短く鳴いた。
お前は三番目だ。
男はまるで虎に話しかけるようにそうやって言った。
青年は、ここがどこなのか調べることにした。
途中、突風に吹き飛ばされるようにして駆けてゆく兎と擦れ違った。その少し先ではなんと龍を目撃し、青年は茂みに隠れてやり過ごした(その間に青年の目の前を蛇が通過していたのだが気がつかなかった)。茂みから這い出たところで馬と鉢合わせし、背に跨ろうとしたが決して乗せてはくれなかった。
大きな川の前に出た。羊と猿と鶏が、同じ筏から仲睦まじい様子で川岸に降り立つ姿を見た。反対の岸では犬が水遊びしているようだ。青年は筏を拝借して対岸に渡った。犬はまだ遊んでいた。
青年は高い場所を目指した。途中、執拗に地面を掘り返す猪を見つけた。
ようやく高い崖の上に立った。ここは小さな島のようだ。
その時、眼下の川に流される猫を発見した。猫を目で追った青年は、その先に船の姿を認めた。
青年はその船に乗せてもらい、島を出た。龍を見たと話したが、誰も信じてくれなかった。
朝起きると、背中に違和感があって大きなコブのようなものが膨らんでいた。
部屋の鏡で見たら、コブには悪魔の顔や体のような形が浮き出ている。
今日はもう仕事に行けないなと思って会社に電話をしたあと、私はとりあえず冷蔵庫を開けて牛乳を飲み、ベランダの鉢植えに水をやった。
「うううっぱあ……。やっと出られたわ。ここはどこなの?」
私の背中を切り裂いて出てきた魔法少女のような少女は、血まみれになりながらそう言った。
「あ、大量出血した人が倒れてる」
私のことだ。
「ごめんなさい。敵の本拠地がある亜空間から抜け出そうとして思い切り拳をつきだしたらこうなっちゃって……」
不思議なことに痛みはそれほどないし、数分もすると出血が止まって傷も治ったのだが、私の背中には、ブラックホールのような空間が広がる大きな穴が空いてしまった。
「まだ仲間の魔法少女がこの中で戦っているから、もう一度あなたの背中に入らせてもらわなきゃいけなくて」
よく分からないけど、そいう事情ならまあ仕方ないかな。
「ありがとう、これで世界を救えます。あたしは月読治(つくよみなおり)で、魔法ネームはキュアムーン。あなたの名前をぜひ教えて下さい」
いやあ、私の名前なんて平凡すぎるし……、それよりも今は、背中に大きなコブが出来たり穴が空いたりしたことをどう受け入れたらいいのかってことだけで精一杯で、はは。
「よくわかります。多くの魔法少女も、世界を救ったあと普通の人間に戻れるかというリスクを抱えながら戦っていますから」
あのう、世界を救うとかいうことは私にはどうでもよくて、明日仕事に行けるかとか、このまま生活を続けていけるかが重要で……。
「ああ、そんなに大きな穴が背中に空いたら、普通の社会生活はいろいろ厳しいですよね……。だったら、あたしたち魔法少女のサポートをする仕事をしてみませんか? 魔法少女に関わる仕事なら、背中に大きな穴が開いてても全然問題ありませんし……」
そういうわけで、私は魔法少女をサポートする仕事に就き、いろいろあって五年後にある魔法少女となんとなく結婚して子どもが産まれることになった。
「最近ね、妊娠で膨らんだお腹に悪魔みたいな顔が見えるの」
そんなの気のせいだよと私はなだめたが、ある日突然、彼女のお腹を突き破って血まみれの子どもが出てきて言葉を叫んだ。
「ぼくは世界を救うために生まれてきたんだ!」
これは呪いなのか。
こどもは両手に荷物を持っていた。重たい荷物だった。こどもは文句も言わず顔色も変えず荷物を運んでいた。道ゆく人びとはこどもに気づくとこどもを褒めた。えらい力もちだねえ。こどもは笑わなかった。なかには心配そうにこどもを見つめる人もいた。
こどもは急いだ。時間までに目的地まで荷物を運ぶことが、じぶんの任務だと信じていたからである。しかし足をはやめすぎたか、こどもは石につまずいてしまった。こどもは転び、荷物は粉々になった。
こどもは青ざめた。運ぶものがなくなってしまったからである。途方に暮れながらじぶんの手のひらを見ると、たくさんの傷があった。荷物を運んでいるときはまったく痛まなかったのに、荷物がなくなったとたんにジンジンと痛みだした。あまりにも痛かったのでこどもは声をあげて泣きはじめた。泣いているうちにじぶんがいままで歩いてきた道のりがはっきりと思い出されてきて、ますます涙が止まらなくなった。
泣いているこどもに気づいたのはエニシだった。エニシはこどもがむかし好んで絵に描いていた生きものだった。エニシは不思議な格好をした妖怪のようなものだった。はじめはエニシの気味悪さがおもしろくてエニシばかり描いていたけれど、そのうちエニシに友だちがいないのをかわいそうに思って、エニシのまわりにクマやらウサギやらを描くようになった。
エニシは泣いているこどもの手をそっと包んだ。エニシの手は、絵に描いたときはゴツゴツして見えるのに、じっさいに触れてみるととてもやわらかかった。こどもはわんわん泣きつづけた。