第282期 #1
ある日のことです。忙しい一日を終えて、さて、眠りにつこう、と布団に潜りまして、暫くの後、ふと目を開けましたら、死神が足元に立っていました。
いったいどういうことか、と驚いていると、グリム童話に似たようなおとぎ話があるのを思い出しました。それは、死神が病人の助かるかどうかの見分け方を教えてくれるといったおはなしでした。その方法は、たしか、死神が枕元に立っていれば、その病人は助かり、足元に立っていれば、死ぬ、といったもので、これを利用して、おはなしの主人公は世界一の医者になったのでした。
これは大変なことになりました。どうやら、ぼくは死ぬみたいです。しかし、そのおはなしを読んだのは随分前のことで、枕元と足元で、どっちが助かってどっちが死ぬのかの記憶も曖昧でしたから、一応、聞いてみることにしました。
「あの、これってぼく、死ぬのですか」
「そうだ」
いよいよ困りました。まだぼくは死にたくないのです。まだ若いのだし、これまであまりいい思いをしてこなかったのだから、これからきっと良いことがあるはずだと思うと、今死ぬのはあんまりです。
どうにか死を免れる方法は無いものか、と考えていると、グリム童話のおはなしに、解決策が描かれていたのを思い出しました。おはなしでは、主人公の医者は、布団を回して、枕元と足元を逆にすることで、死神をだまして、死ぬ運命にある病人を助けていたのでした(何度も死神をだました結果、死神が怒って、主人公は死んでしまうのですけれど)。
これを試さない手はありません。しかし、おはなしでは、布団を回してくれる人がいましたが、今はぼく一人きりですから、なんとか死神の目を盗んで、体勢を逆にして、枕元と足元を入れ替えるしかありません。
「死神さん、死ぬ前に、お月さまが見たいのです。どうか窓を空けてくれませんか」
「いいだろう」
死神が窓を空けている間に、急いで枕元と足元を入れ替えます。
「どうだ、今夜は満げ……あっ!」
枕元と足元は、すっかり入れ替わっています。
「きさま、わしをだましたな。こんどだけは、大目に見てやる。だが、もういっぺんやってみろ。きさまの命はないぞ」
そういうと、死神はすーっと消えていきました。あぁ、怖かった。しかし、また死神に足元に立たれては、今度こそ死んでしまいます。そこで、足元に枕を置いてみますと、もう二度と死神はやってこないのでした。