第281期 #3

泥棒

 人間は、全く嘘であると思います。一種の、あほらしい感じがしてきます。羊の頭に狗の肉とは、ああいうものを言うのではないでしょうか。  
 私が小さな頃は、嘘つきは泥棒のはじまり、とよく言いました。そうして、どんなに小さな嘘でも、大人から叱られました。嘘はいけない、嘘は泥棒のはじまりだ、と耳にたこができるほど聞かされましたから、素直な私は、それをまるっきり信じ、嘘をつかぬよう、心がけてましたし、世の大人は、嘘などつかぬ、立派で誠実な者ばかりだろうと思っていました。 
 しかしその予想は裏切られました。人間は、まったく嘘でした。嘘でつくりあげられている、と言っていいと思います。 政治家なんか、一等分かりやすい例です。彼らは、選挙のときには、それはもう、涙が目に浮かぶほど、感動の大義名分のもと、公約を掲げまして、その公約を読むと、はぁ、これは一体、素晴らしいものだ、こうなれば、日本は、我々は、大いに発展するだろう、とひどく感嘆して、そうしてその党に票を入れて、いざ第一党になりますと、公約などいざ知らず、そんなものは、はなから掲げてすらいないという顔で、それはもう好き勝手、私腹を肥やすのです。…………。

 先日、療養のために生家に帰り、やるべきこともなく、炬燵に脚を入れて、横になってただ只管本を読む日が続いた後、とうとうそれにも飽きて、ふらふらとその辺りをうろついているうちに、古い友人に会いました。 

「やあ、随分、懐かしい顔だ。帰ってたのか、どうだい、調子は」

「まぁ、ぼちぼち、可もなく、不可もなく、ってやつさ。それより、お前のほうこそ、随分、事業をうまくやってるって聞いたぜ」 

 嘘です。この男は、会社員でそれなりうまくやっていたところを、なにやら自分を過大に評価して、社を辞め、貯金を全部はたいて、事業を始めたのですが、つい先日破産したそうなのです。つまり、この男が嘘をつくかどうか、かまをかけてやったのです。

「あぁ、やっと、軌道に乗ったってところだ。大変だったんだぜ。しかしまぁ、金払いは、今のほうが断然良い。お前も、是非ともやったほうがいい。」  

 嘘です。真っ赤な嘘なのです。 
 人とはやはり嘘をつく生き物、つかずにはいられない生き物なのです。 

「そうだ、ところで、先日お前に貸した二万円、あれはどうなった」

「なんのことだい、おれは、おまえから金なんか、一円も借りちゃいないよ」



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