第280期 #3

十二支の島

 海にいるはずだが沢山の獣の声を聞いた気がした。

 神は言った。その者を里に帰してはならぬ。

 海は大時化。青年が乗る船は川に流される猫のごとく揺れに揺れた。

 目を覚ました青年は見知らぬ浜にいた。
 お前が一番乗りだが、どうやら人間のようだ。数には入れぬ。
 煌びやかな出立ちの男が青年に言った。
 男はそれきり何も言わないので青年も何も言わなかった。波の静かな音だけが繰り返し浜に響いた。
 そこへ、鼠が現れた。鼠は男の足下に止まると、鼻をぴくつかせて短く鳴いた。
 お前が一番乗りだ。
 男はまるで鼠に話しかけるようにそうやって言った。
 そこへ、茂みががさごそする音がして、牛が現れた。牛は男の前で止まると、頭を上下に振りながら短く鳴いた。
 お前は二番目だ。
 男はまるで牛に話しかけるようにそうやって言った。
 そこへ、また茂みががさごそする音がして、今度は虎が現れた。虎は男の前にちょこなんと座ると、短く鳴いた。
 お前は三番目だ。
 男はまるで虎に話しかけるようにそうやって言った。
 青年は、ここがどこなのか調べることにした。
 途中、突風に吹き飛ばされるようにして駆けてゆく兎と擦れ違った。その少し先ではなんと龍を目撃し、青年は茂みに隠れてやり過ごした(その間に青年の目の前を蛇が通過していたのだが気がつかなかった)。茂みから這い出たところで馬と鉢合わせし、背に跨ろうとしたが決して乗せてはくれなかった。
 大きな川の前に出た。羊と猿と鶏が、同じ筏から仲睦まじい様子で川岸に降り立つ姿を見た。反対の岸では犬が水遊びしているようだ。青年は筏を拝借して対岸に渡った。犬はまだ遊んでいた。
 青年は高い場所を目指した。途中、執拗に地面を掘り返す猪を見つけた。
 ようやく高い崖の上に立った。ここは小さな島のようだ。
 その時、眼下の川に流される猫を発見した。猫を目で追った青年は、その先に船の姿を認めた。
 青年はその船に乗せてもらい、島を出た。龍を見たと話したが、誰も信じてくれなかった。



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