第278期 #2
2123年。
人類はついに「宇宙一方観察システム」の開発に成功した。
それは、どんなに遠い惑星でも観察できるという、とんでもない技術だった。量子通信を利用し、到達不可能な距離の惑星を、まるで目の前のように精密に観察できる。しかし――観察はできても、干渉はできない。信号を送ることも、通信することも不可能だった。
しかも観察される側には、その事実を知る術がない。
2127年、観測チームは「B359」と呼ばれる惑星に文明を発見する。
そこには人類によく似た生物が暮らし、国家を築き、言語を持ち、産業を発展させていた。文明のレベルは、地球の二百年前ほどだ。
研究者たちは最初こそ熱中したが、やがて退屈を覚えた。
何せ、見ているだけで、何もできないのだから。
そんなある日、B359の住民が「チキンレース」という競技で盛り上がっていることが判明する。二台の車が崖に向かって突っ走り、先にブレーキを踏んだ方が負ける――あの古典的な命知らずの遊びだ。
その映像を見た研究員の一人が、冗談のように言った。
「これ、賭けに使えないかな?」
冗談は現実になった。
「B359チキンレース・オッズシステム」が誕生したのだ。
観察は一方通行。
惑星間通信は不可能。
つまり――このギャンブルには、八百長が絶対に存在しない。
人類史上初めて、100%公正なギャンブルが実現した瞬間だった。