第277期 #3
毎週の木曜日に、猫がやってくる。
在宅ワークを始めてもうすぐ一年。生活は規則正しく、午前9時に仕事を始め、午後5時に終わる。そのあと夕飯の支度をし、週末は休む。そんな毎日を淡々と続けてきた。
けれど、半年前から奇妙なことが起きるようになった。木曜日の午後4時ごろになると、決まって小柄な三毛猫が窓の外に現れるのだ。静かにうろうろして、気づけば消えている。ほかの曜日にはまったく来ない。
最初は不思議で仕方がなかったが、だんだん慣れてしまった。むしろ猫の姿を見るたびに「今日は木曜日か」と思うようになった。まるで週のカレンダーを猫が知らせてくれているようだった。
しかし、なぜ木曜日だけに現れるのかは分からないままだった。
ある日、近所のスーパーに買い物に行ったとき、定期セールのチラシをもらった。曜日ごとに割引品が変わるという。目を通してみると、木曜日は「ペット用品割引」とある。あれ? と思った。
後日、たまたま木曜日に休みが取れたので、様子を見にそのスーパーへ行ってみた。すると入口近くで、若い女性が猫缶を買っては店の脇に並べているのが見えた。野良猫が次々にやってきて、それを食べている。
「あの……どうして木曜日に?」と聞くと、彼女は笑って答えた。
「木曜だけ猫缶が安いから、ついでに野良たちにあげてるんです」
――つまり、あの三毛は“私の部屋の前を通ってから、スーパーに出勤していた”というわけだ。
それを知ってからというもの、木曜4時になると私は猫を見るたびこう思うようになった。
「お疲れさま、今週も安売りシフトご苦労さん」