第276期 #2
息子とあたしは毎週木曜夜11時になると情報バラエティを見る。それぞれ推している女性アイドルと若手イケメン俳優が目的だ。
番組が始まるとシーフードヌードルを2つ用意してあたしがお湯を沸かすのがルーティンになっている。
特に会話をすることもなく番組が終われば「おやすみ」とだけ言って自分の部屋に帰って行く。残ったスープを流しに捨てて木曜日の夜はなんでもなく終わる。
中学の卒業式の次の日息子は金髪に染めてきた。旦那に似た細い目とニキビ面には似合っていなかったが、「かっこいいじゃん」と言ってやった。
それからは少し様子がおかしい。お決まりのシーフードヌードルは自分のバイト代であたしの分まで買ってきて「お湯いる?」と聞いてくる。いるに決まっている。自分の分を食べ終わると私が食べ終わるのをチラチラ見ながら待ってあたしの分のもスープを捨てて「おやすみ」と言って自分の部屋に帰っていく。
最近は木曜日の夜に帰って来なくなることも多くなった。それでも不定期的に2人の木曜日は、やってくる。ある木曜日はスープを捨てる息子を見て私がニヤニヤしていたらしい。「気持ち悪りぃな」と言って自分の部屋に帰っていく。
ここのところお腹が出てきたのは年を取ったのと夜中のシーフードヌードルが悪いのはわかっている。ただカレンダーが木曜日に近づくとなんだかソワソワしてしまう。
「悪い男になったもんだぜ。」
自分の息子ながらそう思う。女ってそういう男に昔から弱いんだ。