第275期 #4
砂漠のどこかに財宝が隠された洞窟があるのだと少年は友人から聞いた。
そして友人は確かにその洞窟を見つけ確かに財宝を手にしたのだが洞窟から出た途端に財宝は砂に化けて崩れ落ちたので手元には無いのだと話した。
友人がその洞窟まで案内してくれるというので少年は冒険の準備をすっかりすませて夜中、友人と合流して砂漠へ向かった。
友人はうずたかい山のような砂の前に立つと少年には理解できない言葉を歌のように口にした。
すると地鳴りが起き砂が山から崩れ落ちて大きな岸壁が姿を現した。
岸壁には真っ赤で巨大な両開き扉が嵌め込まれていて、その扉の両脇に虎の彫像が一体ずつ台座に置かれていた。
あれは動いて嚙みついてくるから、これを使え。
友人はそう言ってキツネの尾のような房がついた一本の茎を少年に手渡した。
これの先をゆらゆら動かしながら像に近づくんだ。おれはあっち、お前は向こうだ。
友人に言われるまま少年は茎の先端を揺らしながら彫像の片方に向かっていった。
がおー
突然、彫像が生き物のように滑らかに動き出すと色もみるみる本物の虎の色に変わり白い牙と赤い舌を少年に向かって剝き出しにした。
怖がるな。とにかくゆらゆら動かしつづけろ。
見ると友人の方の彫像も本物の虎に化けている。
少年は無我夢中で茎の先端を揺らし続けた。すると、
ごろごろごろ……
虎は喉を鳴らして台座の上で腹を見せて横になってしまった。
おれが編み出した魔法だ。
やはり大人しくなった虎の前で友人は誇らしげに言った。
その時、真っ赤な巨大な扉が地響きを立てて観音開きに開いていった。
扉が開ききる前に中に入ってしまった友人を少年は慌てて追いかけたが続く地響きの最中、少年が振り返ると開いていたはずの扉は今まさに閉まるところなのだった。
行くぞ。
壁に並ぶ松明が煌々と照らす道をひたすらまっすぐに進むと、やがて行き止まりに突き当たった。
そしてそこには砂漠の砂ほどもあろうかという金銀財宝が転がっているのだった。
何か選べ。おれはこれにする。
友人は宝石がちりばめられたナイフを手に取っていた。
少年は母が喜びそうな宝石箱を手に取った。
道を引き返し閉ざされた扉を友人の呪文で開くと二人は洞窟の外に出た。
その途端、ナイフと宝石箱は友人と少年の手の中で砂に化けてしまい崩れ落ちたのだった。