第273期 #4
チヨが殺しを打ち明けた時、タマもカズも驚かなかった。寧ろどの場所でどのように殺したのか聞きたがった。チヨは正直に、森で寝ている首を抉ったのだと答えた。その時、タマとカズの口元がだらしなく歪むのをチヨは見た。それが春の草花の鮮やかさに余りに似つかわしくないもののようにチヨには思えて閉口し、切り株から腰を上げて立ち去った。タマとカズはついてきた。タマとカズはきょうだいのようだが違った。親もいなかった。誰が親だったのか誰も知らなかった。いつからこの村にいるのかの答えが異なった。八十の婆が子供の頃に一緒に遊んだという話さえあった。
チヨは山を登り、木々が開けて村が見下ろせる場所に立っていた。物音に振り向くとタマとカズがまっすぐ横に並び立ち、薄ら笑いを浮かべてチヨを見ていた。どんなかんじがした? たいへんだった? たのしかった? タマとカズの声は木霊のように部分的に重なり或いは完全に重なって、そして木霊となって村に降り注ぐようだった。楽しくない。思い出したくもない。チヨの叫びも木霊になったが不気味なほどチヨには大きくけたたましく聞こえた。なんだ。そうなの。つまらない。タマとカズの木霊は今度は上へ上へと昇っていった。チヨが木霊を目で追っている間にタマとカズは狐のように消えていた。
この日を境に村近傍の森でちらほら死体が見つかるようになった。無論チヨは見に行きはしなかったが話に聞く限りその有り様はチヨのやり口に瓜二つのようで、チヨはタマとカズがやっていると考えるようになった。だから母とがさごそ始める夕方、外で遊んでこいと父に言われても決して家から出ようとしなかった。しかしどうやらすっかりタマとカズは姿を晦ましたようだとあとで知った。おざなりに一回だけ隣村の境まで男たちが捜しに出ただけでみんなすっかりタマとカズのことを忘れてしまったようだった。
だが死体は見つかり続けた。同じやり口で。そしてとうとう村の者の死体が見つかった。だがやり口が違った。その余りの惨たらしさに村を挙げての山狩りとなった。どうしてだか下手人はタマとカズということになっていて、農具を手に、中には死体からくすねた刀を持って、集まった者の顔はこれから祭りでも始まるかのようだった。
チヨはタマとカズが怖かった。だから家に隠れていた。両親もきょうだいも意気揚々と家を出てチヨに気づきもしなかった。みんな戻ってこなかった。