第271期全作品一覧

# 題名 作者 文字数
1 瓶にいれた手紙 OS 1000
2 告白代行サービス 蘇泉 958
3 入学式 病みねこ 253
4 二千年前の話と、遊園地と、テロリスト euReka 1000

#1

瓶にいれた手紙

 外の世界に出ると共通した目に遭遇する。性別や年齢は関係ない。彼らは動きを止め、時が止まったように私を見る。露骨な場合は、足先から頭上まで撫でるように見る。彼らに気づかないそぶりで目を背ける。しかし、視野の端に彼らの目がある。

 どの目も似ている。まず大きく見開き、顎をひき、瞳孔を広げる。射るように直線的に動く。光を集めた目は発光し、ビームのようだ。目は、脳の神経から内部と繋がっている。何かしらの伝達信号を交換している。たぶん、私が何者であるか? 読み取ろうとスキャンしている。その間、彼らの内部が空っぽになる。彼らは私も彼らを見ていることに気づかない。気づいたとしても気にも留めないだろう。彼らは大勢の共同体の一部であると疑わない。脳内にある知識をめくり私を探る。答えは出ているのだろうか? 出ていないようだ。彼らは飽きることがない。いい加減にしてもらいたいのだが。

 このように私は観察する。彼らの目の動きやまばたきの回数、瞳孔の色や見つめる時間の長さを。その際の表情、皮膚の引きつりやこわばりを。見ている間の体の動きを。私自身も彼らを観察している間は空っぽだ。見張り合っている。不毛だ。

「わたしの居場所はどこ?」
 誰かの声の残響に私は答える。
「居場所なんてどこにもない。私は黒い羊だ」

 でも、白い羊に戻るなんて出来ないのだ。気づかないふりをして、今日もあの目をした肉屋たちの視線を浴びる。はじめは親切な人々も肉屋の影響で、共通した目の様相に変わる。多勢に無勢。その移り変わりも観察する。大勢に膨れ上がった肉屋たちの目は網目となり共同体として息吹きうねる。どうしようもない。

 出来ることと言えば、言葉で描写することだ。一部始終を紙に書き、空き瓶に入れ、外に向けて流す。しかし、それは誰にも届かなかった。瓶は共同体となった網目の波の中で寄せては返され、飲みこまれ、終いには網からぬけ落ち、地面に叩きつけられ、ゴミになった。それは人だかりに触れても透明であった。はじめから透明な言葉だったのだ。ただ描写している時間だけが、自己とつながり自身を支えていた。



「時間ですよ」
 マネージャーがドアを開けて私を呼ぶ。
「はーい。行きます」
 文章を書き終えると匿名で短編サイトに素早く投稿した。明日からライブツアーが始まる。数万人の視線一斉に私に向けられる。その重圧を吐き出し、リハーサルへと向かった。にゃん。


#2

告白代行サービス

「はい、こちら、告白代行サービスセンターです」
唐田はネット広告を見て、「告白代行サービス」というものを試してみることにした。
「お客様には、告白したいお相手の連絡先をご提供いただきます。我々が代わりに告白を行うという仕組みです。スタッフは全員、告白の達人ですので、成功率を大幅にアップさせることが可能です。ただし、あくまで“脈あり”の相手に限ります。まったく接点のない方への告白はお引き受けできません。そして――」
スタッフは続けた。
「複数人の脈あり相手を一括で提出することも可能です。候補が多ければ成功率も上がるので、おすすめですよ。万が一、複数の方と同時に成功してしまった場合は、こちらで適切に処理いたしますのでご安心ください。お客様のLINE、Facebook、XなどのSNSアカウントを一時的に委託していただくだけで、あとはすべて我々が代行いたします」
唐田はすんなり契約した。実は、気になる相手が二人、そして「当たればラッキー」くらいの相手が一人いるのだ。
「承りました。結果が出次第、ご連絡差し上げます」
スタッフはそう言って手続きを完了させた。

一週間後、告白代行サービスから連絡があった。
「唐田さん、おめでとうございます!無事に告白が成功し、Bさんとお付き合いすることになりました。第一希望だったAさんは残念ながら実らず、チャレンジ枠のCさんも今回は見送りとなりました。ただし――」
「ただし?」
「はい。ただし、計画外のXさんから、告白されました。Xさんはかなり条件の良い方でして、現在こちらで保留とさせていただいております。唐田さんのご判断で、Bさんとの交際を続けるか、Xさんを受け入れるかを決めていただければと思います。そして、もう一つ、実は――」
「実は?」
「はい、実は……Xさんも告白代行サービスを利用されていることが確認されています。そして、Xさんも複数の相手に告白しているようです」
「えっ……」唐田は少し驚いた。「そっか、やっぱりみんな使ってるんだな。で、私って、Xさんの第何順位なんですか?」
「それは……有料オプションでのご案内となります。VIPプランにご加入いただければ、ビッグデータを活用して最も“コスパよく”告白できる仕組みをご利用いただけます。いかがでしょう? 今、皆さん、利用されていますよ」


#3

入学式

春の匂いがした。
暖かな桜の匂い。
そよ風に吹かれて飛んできた花びらが 顔にあたってくすぐったい。
今日は入学式だ。
おろしたてのスーツを着て、会場へ向かう。
式が終わると、友達が声をかけてきた。
一緒に食堂へ向かう。
保護者説明会の間は、ここで待機するつもりだ。
二人で話していたら、もう二人友達が来て合流。
計四人になった。
全員で履修について話し合う。
どれを取ればいいのか分からない。
選択必修47単位?!
そんなに取ったら毎週勉強三昧なのでは…
新しい生活にはまだ馴染めそうにない。
けど、楽しそうに笑う未来の私たちが見えた。


#4

二千年前の話と、遊園地と、テロリスト

「この土地は、二千年前までわれわれの土地だったので、あなたたちは出て行く必要があります」
 スーツ姿の青年はそう言って、私に書類を差し出す。
 ここは、まわりに田んぼしかないような田舎だ。
「国連と、政府の承認によって、この地域一帯はわれわれの土地だと認められたのです」
 いやあ、急にそんなこと言われましても。
「だから、この土地は二千年前までわれわれの土地で、そのことは先日、国連や政府にも認められたので、あなたたちにはこの土地に住む権利がないということです」
 はあ、私は東京暮らしが嫌になって、田舎に帰って実家の田んぼを引き継いで、農業を一から学んでいる最中でして。
「あなたの個人的な事情なんて知りません。あなたがこの土地を所有する権利は、法的に消滅したのです」
 
 次の日、近所は大騒ぎになっていて、私と同じように土地を出ていけと言われたようだ。
「二千年前って、何時代の話だよ?」
「ネットで調べると、二千年前は弥生時代で、卑弥呼が出てくるより二百年も前だってさ」
 近所の人たちが、集会場に集まってそんな話をしている。
「なんでも、彼らは二千年前までこの土地に国を持っていたが、宇宙人の侵略で土地を追われたということらしい。その後、宇宙人が去ったあとわれわれの祖先が移り住んできて」
「その宇宙人って何だよ」
「宇宙人は宇宙人だから、それ以上のことは知らないよ」

 そんな訳の分からない理由で土地を追い出されるのは納得がいかなかったので、私たちは行政機関に訴えたり、訴訟を起こすことを考えた。
 でも一カ月間、彼らへの回答を無視していると、この地域にいきなり爆弾が落とされた。
 爆撃を受けた農家の斎藤さんの家には、真っ黒な炭のようになった遺体が転がっているだけで、どれがだれの遺体なのか分からなくなったという。

 私や近所の人たちは状況を理解できないまま、とにかく恐ろしくなって、この土地を出て行く決断をした。

「デスティニーランドが、ついに日本でオープンです!」
 私たちが土地を出て行って数年後、田んぼは全て潰されて広大な遊園地になっていた。
 かつて近所だった家の子どもたちを遊園地へ連れていくと、みんな無邪気にはしゃいでいる。
「失礼ですが、あなたにはこの土地の元住民で、テロリストの容疑があるため事務所まで同行願います」
 いや、私たちはただ遊びに来ただけなのにテロリストって。
「えー、容疑者の男をこれから連行します」


編集: 短編