第270期 #4
「パンダを抱っこできます。」という広告を見たAさんは、「美夢成真株式会社」へ足を運んだ。
「本当にパンダを抱っこできますか?」と、Aさんは受付の人に尋ねた。
「こちらへどうぞ。」受付の人は、Aさんを案内した。
黒い部屋に入ると、スーツ姿の男が一人いた。男は話し始めた。「パンダを抱っこしたいですか?」
Aさんは、「はい、そうです。」と答える。
男は続けて言った。「パンダを抱っこして、どんなメリットがあると思いますか?」
Aさんは少し考えてから、「珍しい体験ですから、話のネタになると思います。」と答えた。
男はうなずきながら言った。「そうですね。パンダを抱っこするなんて、基本的にはありえないことです。もし本当にパンダを抱っこしたら、永遠に飲み会のネタとして使えますよ。ですから、パンダを抱っこしたかどうかが重要なのではなく、パンダを抱っこしたというエピソードを持つことが大事なのです。ここでは、パンダを抱っこすることはできませんが、そのエピソードを手に入れることができる場所です。」
男はさらに続けた。「安心してください。私は中国の四川省に10年以上住んでいたことがあり、実際にパンダを抱っこした経験があります。その体験をそのままお教えしますから、絶対に価値がありますよ。エピソードを覚えたら、あとは四川に行くための往復チケットを購入して現地を訪れるだけです。もちろん、現地で本当にパンダを抱っこしたかどうかは誰にも検証できません。これで、あなたは『パンダを抱っこした』人間になれるのです。」
Aさんは納得し、支払いを済ませた。男が紹介した旅行会社で四川行きのチケットも購入した。万全の準備が整った。
そして、翌月。Aさんは自信満々で飲み会に臨んだ。とりあえずビールが来たら、一発エピソードを披露するタイミングを探していた。そのとき、隣の同僚が急に話し始めた。
「そういえば、こないだ俺オーストラリアに行ったんだけど、カンガルーを殴ったんだよ!」
Aさんは悔しさを感じた。なぜなら、男から「パンダを抱っこした」エピソードを購入する際、ついでに「カンガルーを殴る」エピソードも半額でセット販売されていたからだ。