第27期 #11

どうか孕ませて

昨日、きっぱりと諦めようと誓った。何度もそう思った事があるけれど、今度こそ本当に諦めるんだと心に決めた。
・・・でも。今日になって思い知る。やっぱり諦められない。私の身体がどんなマイナス要素で満ちていようとも、私の脳は子供を産む事を夢見てやまない。
「先生、いくらお金がかかってもかまわないんです。ホルモン治療とか人工授精とか、手段ならあるでしょう?」
「いや、・・・しかしねぇ」
「基礎体温を計っても性交渉のタイミングを工夫しても、少しも効果が見られない。・・・全ての治療を試す前から諦めろと言うんですか!」
私は二年前から、一つ年上の男と同棲している。同棲し始めた頃から、私は子供が欲しくて仕方がなかった。結婚にこぎつけるため、というわけじゃない。彼は元妻との離婚調停が済んだばかりで、これから高い慰謝料と養育費を払ってゆく立場だ。再婚出来る状況でない事くらいわかっている。そもそも彼の離婚の切っ掛けが私なのだから、その私が結婚をせがむ事もむずかしい。
それでも私は、どうしても子供が欲しい。子供のみがもたらしうる幸福について、ついつい深く考えてしまう。
「やはり来られましたか。そんなに頻繁に来られても、有効な処置が出来るわけではないのですが」
柔和な婦人科医師は諭すように言う。
「でも先生・・・」
「あなたが真剣なのはよくわかりますよ。でも時と場合によって、出来る事と出来ない事との別はうまれるものです」
私たちの性交渉はきわめて順調だ。求めれば応えてくれる。求められれば応えもする。二人ともまだ若いし、回数だって普通より多いくらいだ。
不妊について、彼に協力してもらっているわけではない。彼の状況が状況だけに、子供が欲しいとはなかなか言えないから相談もしていない。でも、彼は元妻との間に子供をもうけているのだから、彼に問題はないはずなのだ。
あるとすれば私の方。こんなにこんなに子供を欲しがっている自分の方・・・。
 
「先生、決心とお金の用意をしてきました。・・・体外受精が一番確立が高いんでしょう?だったら今すぐそれを施して下さい」
婦人科医師は目を閉じ、深いため息を漏らした。
「あなたの夢を壊すようで申し訳ないですが」
「なんですか」
 医師の顔が、突如柔和なものから厳しいものへと変わった。
「そもそも、現代医学では不可能なんですよ!男性が男性を孕ませるなんて事は!」
「じゃぁ女性なら、私を孕・・・」
「それも無理だ!」



Copyright © 2004 広田渡瀬 / 編集: 短編