第265期 #7

何か

額に蝿がとまった。
音をたてて弧を描きながら縦横無尽に身体の周りに飛ぶ。
執念に纏わりつき、肌に張り付き、細い手をすり合わせ止まる姿にイライラした。

追い払おうと手をかざしたが、よく見ると黄と黒の縞模様の腹部があり、身体も一回り大きい。
鋭く長い毒針もある。

スズメバチだ。

私は驚き、息を飲んだ。
静かに身体の動きを少なくしながら、安全な場所に少しずつ移動を試みるのだが、スズメバチが鋭く太い毒針を光らせながら音を立てて周囲を廻る。

後退りすると寄ってくる。
恐怖に慄きながら、じっくり見ると激しく振動をし、握り拳の大きさの黒い毛玉状になってゆく。
フサフサとした毛に覆われていった。次第にマリモのようなものになった。
それが私の後を付いてくるのだった。
先ほどより安全な状況になり、安堵したが依然として不可解である。

得体の知れぬものは、私を主点とし整列しながら静かに分裂し、同じ大きさになると地面に落ちていった。
分裂する際に、毛が粉のようにフサフサと空中を舞う。
地面に落ちたソレらは驚くことに液体に変化し、墨汁の水たまりとなった。

全てのソレらが落ち水たまりが形を成した時、ソレは私の影とわかった。
影は陽炎のように揺らめき、様々な角度や大きさ、膨張や縮小をし、形状になる。

それとも私自身がその様になっているのか?

空間を影が這う。
液状の繊毛体のように四方八方を壁を飲み込み覆いつくしてゆく。
全てが影になった時、闇となり、夜となった。

闇は私を包み、静寂と安心が広がる。

子宮ニイル頃ノヨウダ
私のつぶやきが聴こえた。

横たわり闇を見あげた。
夜空だった。

満天の星が光輝いていた。
星月夜だった。

人ハ死ンダラ星ニナル。
声が聴こえた。



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