第265期 #4

温もり

ただ理由もなく死にたくなったので、君に連絡。
「助けて」
死にたいけど君とまだ一緒にいたい。だから気づいて、助けて。一人になりたくて逃げたくて、静かにドアを開け門を飛び越えた。部屋着のまま、スマホを持って街灯が照らす道をただ歩く。位置情報は切ってない。だから、気づいて、僕の元に来て抱きしめてよ。
定番の場所はどこだろうか。数時間で行ける場所。公園、山奥、海辺、駅のホーム。君が助けに来やすい場所。君の家から近い場所。電車はもう動いてなくて線路沿いにただ進む。君の近くまで。足が痛くて動かなくて寒くて泣きたくて苦しくてどうしようもなくて、気づけば走っていた。走り疲れてスマホを見たら君から返信が来てた。
「どうしたの。助けるよ」
言いたい言葉が見つかんなくて、何を言えばこの気持ちが伝わるかわかんなくて、たった四文字を打つ。
「会いたい」
すぐに返事が返ってきた。
「待ってて」
既読をつけて、返事を悩んでいると連絡がきた。
「今、後ろにいる。」
メリーさんみたいだなんて、ちょっと笑ってしまう。後ろから抱きしめられて溶かされて、暗闇の中に私の声が静かに響いていた。



Copyright © 2024 病みねこ / 編集: 短編