# | 題名 | 作者 | 文字数 |
---|---|---|---|
1 | 近況報告 | 蘇泉 | 624 |
2 | 孤独な人が集まる喫茶店 | euReka | 1000 |
To: YMZK_Bungakubu@super***daigaku.ac.jp
Title:近況報告
—----
YMZK先生
昔の留学生のLINです。ずっと連絡していなくて、ごめんなさい。
日本は桜の季節になったのでしょうか。桜、見たいですね。
先生に、近況を報告します。
去年この仕事を受けて、派遣みたいな感じでここに来ていますが、今はだいぶ慣れています。
生活はもう全然問題ないし、仕事もうまく行っている感じです。
卒業後、母国で日本語教師をやっていましたが、まさかここにも語学の仕事があるとは思いませんでした。
私は日本語、英語と母国語ができるので、それで採用されたらしいです。
通訳の仕事もやります。
職場はかなり多国籍的なので、すごく楽しいです。
お陰で彼女も出来ました!♡
結婚も出来そうかも!!!
唯一、私も、彼女も、料理ができないので、外食ばっかりしています(;´Д`)。
ここの飲食店はね〜〜やっぱり無理なところがあります。
あ、そうですね。
地球に戻ることなんですが、やっぱり火星開拓団の仕事を優先したいと思って、しばらくは地球には帰らないかなと思います。今月火星にスターバックスが出来たから、それに先月はKFCが出来たし、もう地球での生活とはそんなに変わらないですよ。彼女はね、実は火星スターバックス1号店の店員さんなの!(*´σー`)エヘヘ
今度は火星のお土産を持って大学を訪問します。では、また!
LIN
《孤独な人が集まる喫茶店》というのを始めてみた。
店名が露骨すぎて誰も来ないんじゃないかと初めは思っていたが、意外と客は来てくれるので何とか営業はできている。
「ナポリタンと、コーヒーをお願いします」
店のメニューは、ナポリタンと、オムライスという二つの食べ物と、コーヒー、紅茶、コーラという三つの飲み物だけ。
オムライスは、きれいな形にできるまで、三週間毎日練習した。
「まるで黄色いラグビーボールみたいですね」
そう客に言われても、褒められているのかどうか私にはよく分からなかった。
「今はただの年寄りですけど、ずっと昔ラグビーの選手だったので、楕円形のものを見るとつい」
店の客層は、一割ぐらいは変った感じの人に見えるが、九割はごく普通だと思う。
変った感じの人は、服装などの見た目が変っている人もいるが、多くは、何となくたたずまいが特殊というか、近寄りがたい雰囲気の人だ。
「ご注文は、どうしましょうか?」
「皿うどんありますか?」
「いえ、ありませんけど……、明日なら、何とか材料を用意して作ることも可能です」
「明日は、遠方にいる親戚の法事があるのですが……」
そういう客もたまにいるので、長崎の皿うどんや、宮城のずんだ餅や、兵庫県明石市の明石焼きを一時的にメニューに加えたこともある。
あとは、「わたしは別に孤独じゃないけど、入っても大丈夫ですか?」という人も年に一人か二人ぐらいいる。
しかし「ぜんぜん大丈夫ですよ」と私が言うと、彼らは少し拍子抜けした顔で席に座るのが、何だが面白く見えた。
開店してちょうど十年経った日、上西さんが十年ぶりに喫茶店を訪れた。
上西さんは開店資金を無利子で貸してくれた人で、その日が最後の返済日だった。
「はい、これで全ての返済は終了です」
私は深呼吸をしたあと、上西さんにこれまでの感謝の言葉を述べた。
「ところで、あなたの孤独は、喫茶店を始めたことでどう変りましたか?」
「私はたぶん孤独なままで、十年前からたいして変っていないかもしれません」
上西さんが不意に右腕を横に伸ばすと、空間が少し歪んだような感じになって、大きな鎌が出現した。
「カミニシ(上西)とは、シニガミ(死神)のことで、実は十年間待った上であなたを殺すために今日来たのです」
「ああ、何となく知っていましたが、上西さんも、きっと孤独だったのですね」
「あなたを殺す前に、オムライスを一つお願いします」